風のがっこう便り2022年(20221219)

 ~持続可能な社会の構築に努めるデンマークの人たち~

 

2022年、間もなく終わろうとしています。今年も研修生の受け入れは無しで終わります。「風のがっこう」を開設し25年が過ぎました。この間多くの方々にデンマークが導入している(して来た)環境とエネルギー政策について見聞して頂きました。下記原稿は今年(2022年)11月23日(水)のズーム会議で発表したデンマークの環境・エネルギー政策などの要旨です。デンマークが取り組んで来た(いる)環境・エネルギー政策の流れや動きが理解できて頂ければ幸いです。デンマークはオイルショックを教訓に国内資源の活用を通し環境負担に配慮したエネルギーの供給に努め、次世代に繋げることに努めていることを紹介しました。

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日本科学者会議第24回総合学術研究集会in大阪 予稿集

B1 分科会   気候危機に立ち向かうデンマークの気候変動対策について

               ~自然エネルギーと省エネ社会の実現に向けて~

        SRA Denmark 及び「風のがっこう」主宰 ケンジ ステファン スズキ

はじめに:

今日におけるデンマークの気候変動対策の始まりは1970年代と80年代における石油危機(オイルショック)に遡る。オイルショックの経験をもとに、デンマークは国外からの化石燃料の依存からの離脱策を採り、国内資源である北海油田の開発、風力発電、バイオガス発電の導入策を軸に、エネルギーの自給化を図ってきた。1990年代に入ると地球の温暖化対策の必要性が語られるようになり、1997年の京都議定書の約束に合わせてデンマークは地球の温暖化防止策として化石燃料の消費を減らし、再生可能エネルギーに移行する政策を導入した。具体的に採られた施策は、風力発電やバイオガスの導入と発電と熱を同時に供給するコージェネ発電所の導入であった。コージェネ発電所の熱源は、家庭や業界から出る可燃廃物の他、麦わら、ウッドチップなどであり、石炭、石油、天然ガスの消費量を減らすことに貢献した。発電と共にお湯を生産し、地域一帯に熱を供給する地域暖房の仕組みを採り入れ、各家庭での暖房と給湯を止めた。それと同時に住宅の省エネ化を図り、建造物の断熱性を高めるための施策を採り入れ、結果として化石燃料を減らし、二酸化炭素の排出を削減してきた。既存の地球温暖化による被害への予防策としては、汚水と雨水を分離して処理するための下水工事と雨水を溜める貯水池への助成策を採っている。これらデンマークがオイルショック以降に取り組んできたエネルギー政策の結果、新たな産業が生まれ、雇用と輸出に貢献し、国家経済に大きな役割を果たしている。

1.デンマークのエネルギー供給と消費源の推移について

京都議定書で約束した温室効果ガスの排出量は1990年水準に対し、2008年から2012年の間に5パーセント削減することであった。デンマークが採ったエネルギー供給策は、二酸化炭素の排出量が多い、主に石炭と石油消費量を大幅に削減したことであった。数値でみると1994年から2020年における石炭の消費量は120ペタジュール(PJ注)から11ペタジュールへと90.8%減らし、石油においては9.5ペタジュールから0.1ペタジュールへと90.1%削減した。また天然ガスにおいては8.2ペタジュールから3.6ペタジュールへと56.4%削減した。化石燃料の削減に対して増加したのが、風力発電、廃棄物を含めたバイオマス、そしてバイオガス、太陽光である。これらの再生可能エネルギー源による発電量は1994年の6.3ペタジュールから2020年には85.1ペタジュールに増え、伸び率は1256%になっている。再生可能エネルギー源の供給の中で特に増大したのが風力発電で、2020年におけるデンマークの設備量は6259MWであり、人口一人当たり1kWを超えた。その結果、風力発電からの供給量は1994年の4ペタジュールから2020年には58.8ペタジュールに増え、この間に1336パーセントの伸び率となった。(PJ):約2億7800万kWh.

2.コージェネと熱供給、及び二酸化炭素の排出量について

デンマークの建物の多くは建物全体を温める仕組みを採り入れており、1980年代においては個別の石油を熱源としたボイラーと、一部の都市においては地域暖房が採り入れられていた。その後の石油の値上がり(政府による石油離れの政策導入もあり)がもとになり、1990年頃から石油に代わって天然ガスを熱源とした暖房と給湯、地域暖房による熱供給の普及が進んだ。デンマークの約290万世帯における2020年の熱供給源を数値で見ると、地域暖房が占める割合は65.2パーセント、天然ガスボイラーは15.0パーセント、石油ボイラーは7.7パーセント、そして熱ポンプ、電気、薪ボイラーは12.1パーセントとなっている。デンマークの1平方メートル当たりの室内暖房量は1990年から2020年までに21.5パーセント削減された。削減の背景には政府補助を利用した住宅の断熱、燃料効率の良いボイラーに取り換えたことがあげられる。

図1.住宅の熱供給別世帯数(単位1000件)

薄青:石油、黄色:天然ガス、濃紺:地域暖房、

オレンジ:その他(ペレットや熱ポンプ)

 

 2、住宅の熱消費量推移(単位:1990=100

 

赤線:1平方メートル当たりの熱消費量、

灰色:暖房量、黄色:暖房面積、

出典:デンマークエネルギー統計2020年

今日のデンマークの新築住宅の外壁の基準は厚さ43cmで窓やドアのガラスは断熱剤を入れた3重のものと言われている。その結果、総エネルギー消費量は1990年から2020年までの間に14.5パーセント削減され、二酸化炭素の排出量は50.7パーセント削減することができた。

3. 地球温暖化現象への対策について

デンマークの年間降雨量の推移をみると1981年から2010年の年間平均値は746㎜、1991年から2020年は759㎜、そして2011年から2020年は782㎜と増えている。しかも近年は集中豪雨が頻繁に発生するようになった。平坦地のデンマークにおいて、集中豪雨対策は容易ではなく、採られている被害防止対策の一つは雨水と汚水を分けて処理する工事で、雨水は貯水池を作って溜め、頻繁に水害に遭う人々はその場所から移動することを進めている。

4. エネルギー産業と輸出について

デンマークが取り組んできた(いる)エネルギー政策が結果として風力発電、地域暖房管、温度調整器、ポンプなどのエネルギー技術機器の輸出に繋がり、2020年の輸出額で見ると約820億クローネ(約1.6兆円)となり、デンマークの輸出総額に対し11.7パーセントを占めている。

暖房用パイプ

地域暖房が使っている70℃前後のお湯を流す

断熱した鉄パイプ、耐用年数50年

写真:筆者提供

おわりに:

デンマークが取り組んできた気候変動への対策の成果は地球温暖化防止策に貢献し、国のエネルギー自給策と産業界の活性化に繋げている。その結果、デンマークは世界で最も持続可能な社会だと評価されている。

主な引用文献:Energistatistik 2020

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上記発表原稿要旨への補足をします。

①       デンマークの風力発電量の記録について

今年(2022年)の11月16日、デンマークの風力発電所は1億3,600万kWh(キロワット時)発電し、4月9日の1億2,600万kWhの発電量記録を更新しました。この1億3,600万kWh発電量はデンマークの世帯数34,000件の年間電力消費量に該当します。(デンマークの平均一世帯当りの年間電力消費量は約4,000kWh)。この1億3,600万kWhを石炭火力発電で発電した場合における石炭の消費量は約41,000トンとなり、それによる二酸化炭素の排出量は約10万5千トンになります。(石炭火力発電による二酸化炭素の排出量はキロワット時当たり772グラム)。また石炭の購入料金トン当たり約400ドルとしてみた場合、日本円で約23億円相当を風力発電が稼いだことになります。一方デンマークの風力発電事業主は売電収入の一部を所得税として納税するため、デンマークの国としては、廃棄物の出ない(石炭火力発電所が出す、燃え殻の量はkWh当たり52グラム)、風力発電によって外貨を節約し、売電額による所得税を得るということです。特にロシアのウクライナ侵攻によってロシアからの天然ガスや石油の輸入を取りやめたEU諸国において、電力料金が大幅に値上がりしています。この影響はデンマークの風力発電事業主の大幅な増収につながっていることです。例えば個人で風力発電と太陽光を手掛けている経営者の話ですと(デンマークの電力消費量の約1.5%を発電している事業主)今年の経常利益額は昨年の倍約1億クローネ(約20億円)になる見込みでいると語っています。ということは同人の納税額が増えることになります。結果デンマークの国にとっては国内の風力資源を利用し発電しそのことで納税額も増えるという誰も損しない政策となっているのです。

 

②       デンマークの風力発電設備の内訳と発電量について

デンマークの風力発電設備量は、台数は減りながらも設備量は増えています。その結果499kW以下の風車台数は2000年から2020年の間において1473基減り一方2000kWの風車台数は同じ期間中に1293基増えました。2020年におけるデンマークの風力発電設備量は陸内に4,559MW、洋上に1,701MW計6,259MWとなっています。デンマークの2020年における人口数は約583万人ですので、デンマークの風力発電設備は一人当たり1kWを越えました。

2020年における発電量では、2MW(2000kW)以上の風力発電機の占める割合が74.5%となっています。デンマークの風力発電機大型化による発電量の増加が結果として新たなエネルギー政策、パワーエックス(Power -X)が生まれました。一つの例として筆者が住むヘアニング市(人口約9万人)はデンマークのHaldor Topsøe社(注)と共同で2024年の創業を目指し水を電気分解し酸素とを水素を作りだすための事業を始めることを発表しました。水の電気分解の電源は再生可能エネルギーである風力と太陽光からの電力を使うと語っています。今後、重機やトラックなどの燃料は水素になると見込み、年間50万kWhに相当する水素の生産を目標にしていると語っています。今日の世界の水素の生産量は30万kWhと言われており、同社が計画している生産目標値は大規模だということが解ります。同社はHerning市内に工場用地72,000平方メートル確保し20億クローネの設備投資額計上し2024年の創業を目標にしていることを発表しました(Ritzau 23.05. 2022による)。

(注)Haldor Topsøe社、1940年創業、異種触媒を専門とした生産技術会社で、世界の化学肥料の約50パーセントはこの会社の技術を使っていると語られています。従業員数は約2,300人(内デンマーク1,700人)で2020年の売上高は61億79百万クローネ(約1,000億円)となっています。

デンマークは使いきれない風力発電、太陽光発電などの電源をもとにパワーエックスと呼ばれているプロジェクトが、上記Herning 市以外でも計画されており、近い将来重機や自動車船舶の燃料としてこれらの装置から生産された燃料が使われると筆者は見ています。

③       風力発電所設置と環境問題について

風力発電の導入に関し、デンマークでは景観を問題としての反対者もいます。鳥への被害を問題にしている人達もいるようですが、筆者は1991年から風車事業に関与しまた風力発電会社運営管理に何年も携わってきましたが、野生の鳥の死骸(バードストライクと呼んでいる)を一度も見たことはありません。人間が作ったもので最も鳥への被害を生んでいるのは建物、送電線、自動車、農薬と言われており、風車による被害が最も少ないと言われています。また風力発電による低周波(低周波とは100㎐以下を呼び超低周波は20㎐以下を呼ぶ)を問題にしている人もいますが、デンマークの風力発電の設置条件は風車を設置する場合、最寄の建物から最低300メートルの距離を取ることにしていますので、風車の低周波(基準は20㎐以下に抑える)を問題にしている人はゼロではないと思いますが、聞いたことがありません。参考までに、日本の電力会社が勧めているオール電化による、お湯沸かし装置「エコ・キュート」の低周波は10~15㎐で、現在800万台が日本に設置されて言われています。エコ・キュートによる低周波が日本で問題視されているというニュースもあります。その原因はエコ・キュートの設置場所との距離の制限がないためとみています。

④       廃棄物の燃料化について

デンマークでは可燃廃棄物は資源として見做し、1997年1月1日から埋め立てを禁止しコージェネ発電所の燃料として使っています。現在出ている可燃廃棄物を燃料として焼却した場合のカロリー量は1トン当たり11GJ(ギガジュール注)と言われています。廃棄物を焼却することによって発生する二酸化炭素の量はGJ 当たり32.5㎏と言われ、よって1トンの廃棄物を焼却することによって発生する二酸化炭素の量は32.5㎏×11=357.5㎏と計算されます。石炭を使った場合、GJ当たりの二酸化炭素排出量95㎏、天然ガスの場合同じくGJ当たり57㎏となり、 廃棄物を燃やした方が石炭や天然ガスを燃やすよりも二酸化炭素の排出量が少ないことが解ります。

(注):11GJ = 約3,055kWh. (内訳:電力23~24%、熱77~76%)または電力約750kWh、熱約2,300kWh. また、1GJのkWh換算は=277.8kWhとなる。

 

デンマークではEU諸国から年間約40万トンの可燃廃棄物を輸入していますが、廃棄物を燃料として利用した方が化石燃料を使うよりもメリット(受け取り費用を得ていることも含め)があり、またEU諸国の廃棄物の処理に貢献していることにもなっているのです。

 

⑤       デンマークのバイオガスプラントの増大について

ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシアへの制裁としてデンマークはロシアの天然ガスの輸入を取りやめ、さらに国外からの天然ガスに依存することも最小限とすることを決めました。ロシアからの天然ガスに代わる政策としてデンマークが採った施策は、バイオガスプラントの増設です。デンマークはオイルショックの教訓を活かし、農家の人たちは独自にバイオガスプラントの導入を図ってきました。そのことで今日ではデンマークには農家が共同で建設したバイオガスプラントや個人で運営するバイオガスプラントが数多くあります(デンマークのバイオガスプラント数は約190か所)。その結果デンマークのバイオガスプラントが供給するガス量はデンマークのガスの消費量の65パーセントに上り、バイオガスによる天然ガスの削減量は金額にすると約70億クローネ(約1400億円注)になると言われています。

(注)バイオガスの値段はm3当たり130~142クローネ(約2600円~2800円)

 

デンマークのバイオガス業界の計画によりますと2030年におけるデンマークのガス消費量の75パーセントをバイオガスで賄うとしています。天然ガスの代わりにバイオガスを利用することで二酸化炭素の排出量を減らすことが出来る、と語っています。

 

「気候危機に立ち向かうデンマークの気候変動対策について」への補足はこれぐらいにします。デンマーク人のオイルショック以降導入して来た施策が結果として借金の少ない国を創った(いる)と思っています。デンマークの国の借金額について、2021年における政府総債務高はGDP(国内総生産)に対し、36.63%となっています。デンマークは世界188か国中で借金額の多い順番から数え153番目に位置しています(日本がトップで2623.49%、2位がベネズエラ、3位がギリシャ)。デンマークの政府総債務高がGDPに対し他の国々に比べ少ないのは輸出額が輸入を上回っていることも一つの理由になっていると思います。2010年~2020年の数値で見ますとこの間デンマークの貿易収支額は常に黒字になっています。総額で見ますと輸出総額(2010年~2020年,)11,587億ドル、同輸入総額10,292億ドルで, 差し引き1,295億ドルの黒字になっていることです(参考までに2011年~2020年における日本の貿易収支は輸出総額722.9兆円、輸入総額755.1兆円差し引き約32.2兆円の赤字)。

 

デンマークには輸出できるものがある一方で上記で触れた通り電力・ガス・熱量の多くを国内から調達していることです。その結果の一つが貿易収支の黒字として現れているのです。デンマークは子育ての国として世界でトップという新聞報道がありました(Kristeligt Dagblad lørdag den 19. nov. 2022)。そのことを裏付けるデータの一つがデンマークの人口が増えているということです。数値で見ますと2012年~2021年の10年間においてデンマークの人口数は約26万人増えました。同じ期間日本における人口数は約2百万人減りました。

 

世界において持続可能な社会に向けた行動が語られています。現世代に生きる者が次世代を育てるための行動が持続への道だと思っています。その為には国民同士が協力し合うことが大事だと思います。

 

良いお年末年始を迎えてください。

デンマーク・ウアンホイにて

2022年12月15日

ケンジ ステファ