風のがっこう便り2019年

2019年12月1日   ケンジ ステファン スズキ

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2019年も多くの方々にお世話になりました。年末を迎えるに当たり、改めて心からお礼申し上げます。「風のがっこう」は19976月に開設して以来22年が過ぎ、この間多数の研修生を受け入れてきました。今年2019年の研修は1回のみで終わりましたが、研修を受けたい人たちがおられる限り活動を続けていきたいと思っています。理由は何処に住もうと、人は幸せな生活を求めて暮らしているからです。デンマークの国民は、世界の国々の中で最も幸せな国民として上位にランクされていますが、その背景を「風のがっこう」で語り伝え、研修を受けた人たち、あるいは今後研修を受ける人たちと、「幸せな生活」をするための方策を共に考え、また行動に移す人たちへの支援につなげるよう努めたいと思っているためです。「デンマーク人が世界で最も幸せな国民だと言われている背景には、国民生活に欠かせない「水と空気」を汚染から守り、食糧とエネルギーの確保に努めているためだと見ています。」(環境会議秋2017年SDGsに根ざす経営への寄稿文、特集パート2、「風のがっこう」で育む次世代環境リーダーの資質142頁から引用)。

筆者は、持続可能な社会あるいは国家とは、その社会や国家に住む人たちが不安の無い生活を営むことによって可能だと思っています。国家は国民の集まりです。国民の多くが「不安」な生活を送る限り、持続可能な社会や国家は生まれないと思うだけに、国民が抱える「不安」の解消には国の舵を取る人と国民間との協力が必要だと思っています。

人は何をもって「不安」な気持ちになるのか、人それぞれによって「不安という気持ち」の中身が違うと思いますが、そんな国民の不安解消に国や行政には、国民が抱える「不安」を和らげるための施策が必要だと思っています。デンマークでは、例えば、教育費や医療費を国庫負担にしていることで、親は子どもの教育費、あるいは医療費の捻出に心配することは無く、この面での不安は解消されています。失業した場合の生活費、退職後の生活費をどうするか、労働組合と国からの支援があり、国民年金があるので、この面での経済的な不安は解消されます。そしてまた、困った人たちを支援する団体がたくさんあり、国や行政の支援策だけでは不足する人たちにはこれらの団体が側面から援助するというデンマークの国民性があります。

以下、今年2019年「風のがっこう便り」では、国民の「不安」解消が出来ている背景として、デンマークの国民生活を支えている国家財政について、記述することにしました。

 

デンマークの国家財政について

1.     1. 歳入 

デンマークの国土面積は九州と山口県を合わせた面積、約43,0002です。総人口数は毎年増え、201911日付けで見ますと、約580万人になっています。この人口数は日本の千葉県(628万人)あるいは兵庫県(546万人)の人口数に該当します。国土の約62%に当たる265万ヘクタールは農地で約35,000戸が耕作しています。デンマークの農家戸数は毎年減っているため、各農家の農地の所有面積は2000年約48.5 ヘクタールから今日(2019年)のそれは約75.7ヘクタールに増えました。この国土と人口数から世界で最も幸せな国民を生んでいるデンマークですが、国家財政の概要から見ていきたいと思っています。なお、国家財政の細かい説明は本稿では触れず概要についてのみについて記述することにしました。

1.デンマークの国家の歳入

部門別単位10億クローネ

2017

2018

歳入総額計

814.0

843.5

  a.  租税額

722.4

738.7

 内訳:個人所得税及び労働市場基金*

545.1

560.5

    法人税

71.7

68.7

    消費税、関税及びその他の間接税

306.1

323.7

    その他の諸税

51.6

47.5

   市町村税**及びEU拠出金

-252.1

-261.8

  b.  移転及び経常収入

53.3

56.7

 内訳:経常収入

13.1

15.1

    市町村からの移転収入

21.4

22.0

    EU含めたその他移転収入

18.8

19.6

  c.  その他の歳入

38.3

48.1

(出典:Kort om Statens Regnskab -et hurtigt overblik over statens finanser s.9)

*労働市場基金への納税額は給与額に対し8%. **デンマークでは所得税は国税と市町村税を一括して納税し、国は徴収した中から各市町村に支払うことにしている。

デンマークの国の歳入については表1の通りです。表1で見る通り2018年の国の歳入の総額は8,435億クローネ*(約14.34兆円*)で、納税額では多いのは、個人所得税及び労働市場基金の納税額で5,605億クローネ(約9.53兆円)、消費税、関税など3,237億クローネ(約5.5兆円)、となっています。また、法人納税額は687億クローネ(約1.17兆円)となっています。

*但し2018年、国民が納税した総額は、これに市町村税及びEU拠出金を含めた2,618億クローネ(約4.45兆円)を加えた額1.11兆クローネ(約18.79兆円)となります。デンマーククローネの円換算に関しては1クローネを17円としました。デンマークの納税額の規模を、日本のそれと比較してみます。2019年日本の一般会計と特別会計(重複分を除いた)の歳入総額予算は244.5兆円です。内訳は租税収入が65兆円(但し予算65兆円の歳入額は下方修正が見込まれている)で年金や医療などの社会保険料は46兆円と言われています。この二つの租税額を合わせますと111兆円になります。よって日本の租税額はデンマークの約5.8倍(111/19兆円)となりますが、人口数比で日本が約22倍デンマークより多いことを考え合わせますと、デンマークの租税額の大きさが解ると思います。

1で見る通り、2018年デンマークの個人所得税及び労働市場基金額が2017年に比べ、増えています。納税額が増えていた理由はデンマークの産業界を含めた労働市場は就労者に十分は給料を支払いその結果納税額が増えたからです。デンマークの各業界は国内市場が小さいため常に国外に向け、物や用役を販売しています。これについてデンマークの貿易額でその数値を見ることが出来ます。

 

下記図1で見る通り2017年におけるデンマークの輸出総額は1.188兆クローネ(約20.2兆円)でした。内訳をみますと商品輸出額7,468億クローネ、用役輸出額4,412億クローネになっています。この数値を人口一人当たりの輸出額に試算しますと、約205千クローネとなり(1.188兆クローネを人口数580万人で割った数値)日本円で約350万円になります*。デンマークの主な輸出先国の上位15カ国ではドイツがトップ、次にアメリカ、三番目にスウエーデンと続きその後欧州国が占めています。日本は14番目に位置し対日輸出総額は216億クローネ(約3,700億円)となっています。 *2017年における日本の輸出総額は73.8兆円で人口一人当たりの輸出額は約62万円(73.8兆円/12,700万人)となります。よって、デンマーク一人当たりの輸出額は日本の約5.6倍(350/62万円)という計算になります。

3で見る通り、デンマークの商品の貿易収支はデンマークの出超となっています。そして図4で見る通り、デンマークの対日貿易収支は少なくとも過去10年間大幅な黒字になっていることが解ります。デンマークの対日貿易が黒字になっている理由は日常生活に欠かせない食べ物や医療品を日本に売っているからです。一方日本から輸入している品目は耐久消費財である自動車などの運輸機器、産業用機器です。つまり、この数値から言えることはデンマークの対日輸出品目は日本経済の浮き沈みに影響されない品目です。一方日本からの輸入品目は自動車の例に見るように、一度購入したら何十年*も使える物です。*デンマーク人の自動車の使用年数平均14年間と言われている。

   デンマーク農業と輸出額*について

既に触れましたが、デンマーク農地面積は約265万ヘクタール、この内耕作面積は約260万ヘクタールとなっていす。耕作面積の約146万ヘクタールは大麦、小麦、ライ麦など穀類の生産地として利用し、他に草地面積494ヘクタール、ナタネ用農地164ヘクタールなどの生産地に使われています。デンマークの農家は肉生産と酪農生産を主な業務としています。農地は家畜の餌を調達するために耕作し、それを加工し家畜の餌に充てています。筆者がデンマークに入国した19676月から約8ヵ月間農家で家畜の世話をしましたが、デンマークの農家及び家庭も含め動力用の電力供給(三相400ボルト)が配電されていることでした。そのことで配合飼料は自前で加工できる製粉機(穀類を潰す機械)を所有していたことです。デンマーク農家戸数約35,000戸(2016年)の内養豚農家戸数**3,800戸でこの養豚農家戸数から2017年、1820万頭の豚を出荷し(生体重量約100㎏)他に肥育用としての子豚(生体重量約35㎏)約1420万頭を輸出しました。これらの輸出総額は262億クローネ(約4,454億円)で、養豚農家一戸当たり平均約690万クローネ(約1.2億円)輸出した計算になります。豚肉と子豚の主な輸出国先はドイツ、日本、イギリスとなっていますが、最近では中国への輸出も増えています。* 因みにデンマークの食糧部門の輸出総額は2,600億クローネ、これによる雇用人口133千人(2015年数値)となっています。**本稿では養豚業についてのみ記述。

デンマークの豚の生産者価格と豚コレラ(注)での影響について。

2019年に入り、日本、中国,ベトナムなど*に豚コレラが発生し、世界の豚肉供給不足が出て来ました。この結果、豚肉の価格が急上、デンマークの養豚業の生産者価格は2019年年始の1㎏当たり8.30クローネから、201910月末には13.0クローネに急騰し、大幅な収益を生んでいます。どれだけの収益に繋がっているか、試算してみました。デンマーク養豚業者が出荷する豚の生体重量は100㎏を規準とし、解体した段階での重量は(枝肉という)70㎏です。生産者価格が㎏当たり8.30クローネで売却していた時の豚一頭の売価は70㎏×8.30581クローネになります。それが10月に入り㎏当たり13.0クローネ急騰したことで70×13.0910クローネなります。この差額が329クローネとなります。この差額を基に年間ベースで見た養豚農家一戸当たりの増益額を試算してみました。その結果157万クローネ(約2,680万円)の増収という数値が出ました**1820 万頭/3800 戸数×329クローネとして試算しました。

デンマークの養豚業界は、世界各国が豚コレラから抜け出すまで、この先約1年半は必要だとみています。このことで、デンマークの豚肉の生産者価格は1㎏当たり20クローネ位まで上昇するのでは無いかと推測しています。何れにせよ、デンマークの農家の納税額が当分増えることが見込まれ、また、養豚農家で働く就労者の給料*も増える可能性があります。これらの要因からデンマークの歳入額(所得税と労御市場基金)が増えると推察しています。デンマークの養豚農家はウクライナやポーラントなどからたくさんの外国籍の人たちを雇っていますが、彼らへの給与額はデンマーク人と同じでまた同時にデンマークに納税しています。* デンマークの農業部門に就労する人たちの給与額はデンマークの農業理事会と農業経営者との間で取決めされ、それによると、201931日~20202月までの農業従事者の時給は住居無しの場合と住居込の場合では多少の差があり、また経験者とそれではない人との差もありますが140クローネ~147クローネ(住居無し*)、136クローネ~143クローネ(住居付き)となっています。労働時間数は週37時間、そして労働日と労動時間は月曜日から土曜日の6時から18時と決め、また残業手当は時給4.5クローネと決めています。*日本円に時給を換算すると140×17円=2,380円となり、年収に換算しますと140×37週間×52週間=269,360クローネ(約460万円)となります。

注:日本における豚コレラの発生地について以下の通りです(インターネットからの引用)。201999日現在で「岐阜・愛知(7例目を除く)・福井・三重 ・長野・埼玉1例目 、埼玉2例目、岐阜7例目および関連農場、岐阜・愛知・福井6・長野・富山・滋賀・埼玉イノシシ、福井5・石川イノシシ、山梨(と畜場)、岐阜イノシシ60、三重イノシシ」に及んでいる。また中国の豚コレラで殺戮処分される豚の数は1億千万頭から2億頭と言われ、ベトナムのそれは2百万頭と言われている。

筆者はデンマークの豚コレラ対策としてデンマーク政府がユトランド半島の南部と北ドイツの国境に70 キロメートルに渡り垣根を作り、猪が南から入って来るのを防ぐ施策を採ったのはデンマークの国防だと記述し、ホーム・ページに掲載しましたが、豚コレラの発生でデンマークの養豚農家の収益増を見ますと、ドイツの国境に設置した垣根代は安い投資額となっていることが解ります。(勿論垣根無しでも保護できるかもしれませんが、懸念される被害への予防対策は常に採るべきだと思っているためです)。

 

  デンマークの医療品の輸出について

図5.下記図は日本と世界における糖尿病患者を表示しています。

デンマークの製薬会社Novo Nordisk* は持病患者治療用の薬を製造販売しています。その中に糖尿病患者の治療に必要なインシュリンの他、血友病(hemophillia)患者治療剤、成長ホルモンや男女ホルモンなど製造販売しています。2017年同社の売上高は1,117億クローネ(約1.9兆円)で、同社が納税した法人税額は70億クローネ(約1,200億円)でした。2017年従業員数は約4万人、内国内が約17千人ですが、同年,従業員の納税総額は45億クローネ(約765億円)で、平均一人当たり約263千クローネ(約440万円)納税したと言われています。

図5で見る通りNovo Nordisk社は、世界の糖尿病患者数が減らない限り、多少の世界経済が落ち込むことがあっても、生命の維持に関わる治療剤だけに、同社の業績は伸び続けるのは無いかと見ています。その結果、同社はこれからも継続して納税への貢献が可能と見ています。*Novo Nordisk株式会社はノーベル生理学及び医学賞受賞者(1920)August Kroghとその妻などによって1923年にインシュリンの製造販売を目的として創業、今日では日本にも支社ある。2019年における同社の市場価格(markets value)7,933億クローネ(約13.6兆円)といわれ、デンマークでは最も高い企業となっている。2018年売上高は前年とほぼ同じ1,118億クローネで当期利益は386億クローネ、よって利益率は34.5%となります。

   オイルショックの教訓を活かして生まれたデンマークの風力発電産業について

1970年代二度渡る石油供給危機の教訓をもとに、国外エネルギー依存離脱を目標とした政策導入の結果、デンマークには新たなエネルギー産が生れ、それが基となり新たな雇用を確保し、輸出による外貨獲得に繋げて来ています。この中で特に風力発電の開発と導入に力を入れたデンマークの業界とそれによる社会への貢献について記述します。

6はデンマークの風力発電機の1990年から2016年までの導入推移ですが、筆者は19911月から対日輸出に関与、19933月石川県の松任市にデンマーク風車第一号を納品しました。

1991 年世界初の洋上ウインドファームがデンマークに設置されました*。ただ本格的洋上ウインドファームの建設に入ったのは2000年に入ってからです。デンマークの風力発電機メーカーには2000年代に入って統合したVestas Wind System A/S と 2004年にデンマークの風力発電機メーカーBonus Energy 社をドイツのシーメンス社が買収し、名称を変えたSiemens Gamesa Renewable Energy A/S**それに20144月に三菱重工業とVestas社の出資で創業したMHI Vestas Offshore Wind**です。この三社が世界の風力発電市場をリードしています。

*1991年デンマークの風力発電機メーカーBonus Energy450kW、11基をシエーランド島の南海域に設置。2017年に解体。

**Siemens Gamesa Renewable Energy A/S はデンマークの風力発電機メーカーBonus Energy 社を2004年にドイツの総合機械メーカーシーメンスが買収し、2016年スペインの風車メーカーGamesa と出資し2017年に創業した会社です。本社の所在地Brande(ユトランド半島中西部)デンマークの従業員数約6,000人、2017/2018年売上高215億クローネ(約3,700億円)税引き前当期利益21億クローネ(約360億円)よって利益率約9.87%となっています。

**20144月三菱重工業とデンマークの風力発電機メーカーが各1億ユーロを出資して創業した洋上ウインドファーム用風力発電の製造販売そして運営目的とした会社です。

 

Vestas Wind System A/S,は上場会社で同社の会計報告書は公開されています。同社の受注推移について200814年で見ますと下記表の通りです。

2デンマークの風力発電メーカーVestas Wind System A/Sの受注推移

(単位:MW=1000kW)

年代

1~3

46

79

1012

合計

2008

935

1734

596

1232

4497

2009

358

422

643

567

1990

2010

1258

3031

2278

2106

8673

2011

630

2265

1316

3186

7397

2012

1269

945

401

1123

3738

2013

644

1641

1547

2132

5965

2014

1188

1932

1170

732*

5022*

上記7年間計

  6282

 11970

7951

11078

37281

       *資料では概算値

上記表2.の中で2009年の受注が対前年度の比べ半減以下のなったのは2008年アメリカの投資会社リーマンブラザーズ社の倒産による世界経済への金融ショックの影響で、風力発電機への投資も控えたためと考えられます。*リーマン・ショックは、2008915日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマンブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的によぶ通称であ(インターネット情報からの引用)

 

Vestas Wind System A/S2008年から2014年間の風力発電機の受注量は表2の通りですが、その後も同社への註文は減ることなく増大しています。数値で見ますと2017年の受注量は11,176MW2018年は14,214MW受注しています。2018年の受注量を売上高に換算すると1,233 億クローネ(約2.1兆円)となっています。風力発電事業は発電機の納品と共にサービス・メンテナンス契約を結びます。2019年の第三四半期までのその契約額は推定で1, 218億クローネ (2.1兆円)と言われ、風力発電機の受注量とサービス・メンテナンスの契約料を含めた受注額は2019年第三四半期の時点において約3,280 億クローネ(約5.58兆円)と見込まれています。また、2019年におけるVestas Wind System A/S の売上高では8,220 9,150 億クローネ*1.41.6兆円)を見込みEBIT**89%を見込んでいます。*売上高が受注量に対し少ないのは納品していないため、売上金額として計上できないため。**EBIT (Erning Before Interest and Taes), 支払金利前税引き前利益の略

 

Vestas Wind System A/S はどこから註文が入っているか、その一例を記載します。

2019927日付けEnergy Supply d.kの情報)

・アメリカからの受注:V150*-4.2 MWV136-3.45 MW337MW、納品は2020年の第一四半期で、稼働は第三四半期から。サービス・メンテナンス契約期間20年間 

この他にアメリカからの受注には256MW(V120-2.2MW117)134MW(V110-2.0MW67)があり、サービス・メンテナンス契約込、納品は2020年第二四半期で稼働は第四四半期としている。

*V はデンマーク語vinge (羽根又はブレード)の略称でV150 とはローター直径150m(以前の150㎡ の2を削除)を表し一枚の羽根の長さはその半分弱73.7 メートル(以前の約74メートルから)(羽根をセットするハブ部分を除くため)となります.

・ドイツからの受注:V117-3.45MW8基と V126-3.45MW 1基計31MW、納品2020年第四四半期で稼働も同時に実施、20年間のサービス・メンテナンス契約締結。 

・フィンランドからの受注:V150-4.2MW13基 とV150-5.6 MW28基それと風車には解氷装置の取り付け(Anti-Iciing System).サービス・メンテナンス契約期間は30年間、納入期間は2020年の中頃から開始し稼働は2020年~21年としている。 

・イタリアからの受注:二つのウインドファームの中古風車の交換(Repowering projectでその一つは既存のV47-660kW 24基をV112-3.3MW9基に交換、もう一つは既存の風車をV112-3.3MW4基に交換するプロジェクトです。納品は2020年の第二四半期で稼働は第四四半期からとしている。

・ギリシャからの受注:V150-4.2MW 4基、納品は2020年第一四半期で稼働は第二四半期。

 

Vestas Wind System A/S には世界各地から風車の註文が入って来ているわけですが、その背景は何か、既に冒頭でも触れましたが、電力供給は国民生活を維持する条件の一つです。その電力でどのようにして供給するか、選ぶ際において、風力発電機は短期間に建設できること、運営管理費が少ないこと、燃料費なしで発電出来ること、それと今日、地球温暖化防止対策が問われている中で環境保全型発電所として世論が受け入れているためです*

*環境面から見た風力発電所の社会への貢献について見ます。デンマークの風力発電による201810月から20199月までの1年間の風力発電量は約159kWhキロワット時)です。この電力を石炭火力発電所で発電した場合、約530万トンの石炭が必要です*この量の石炭を燃やした場合、二酸化炭素が約1,224万トン出ます。その他に二酸化硫黄1,110トン、窒素酸化物2,854トン、飛塵物317トンそして燃え殻や灰として830万トンが出ます。つまりデンマーク社会が風力発電を導入したことでこれらの公害物を削減し、国民の保健に努めているということです。* 石炭1㎏の発電量は約3kWh,または1kWhの発電に必要な石炭量は300g~320g。それと石炭の輸入額の削減による外貨の節約にもなっています。

デンマークが世界に向け電力消費の約50%を風力発電で賄ない、ヨーロッパ諸国で最も停電少ない国(EU28ヵ国の中で最も停電が少なく、年間の停電時間22分、電力供給安全率99.99%、停電が少ない理由の一つに高圧線及び配電線計約16,000㎞を地中に埋めたことにもよる)として語られている。よってオイルショック後、風力発電の活用を通し、国家経済と国民生活の発展に繋げていることを実証しました。

風力発電によるデンマークの社会への貢献としては公害を出さない発電所の開発でがあり、雇用の確保、その雇用による納税、外貨の獲得などが考えられます。Vestas Wind System A/S の従業員数は風力発電機の受注量との関係で多少の増減があります。例えば2017年末の従業員数は23,303人でしたが、受注が増えたため、2019 年第三四半期末における従業員数は約25,100 人に増え、その内約5,000人が国内となっています。従業員5,000人の納税額そして労働市場基金額は別な機会に記述したいと思いますが、同社のスタッフの中には年間で2530万クローネ(約425510万円)納税している人が多数存在すると見て良いと思います。理由はデンマークの労働市場は、職種別組合制度を採り入れ、労働条件等に関する交渉は3年毎に労使の代表が交渉することになっており、エンジニアリングなど高学歴の人は月額5~7万クローネ(85万~120万円)相当の給与が出ていると推測しているためです。これについては製薬会社の従業員が一人当たり約263千クローネ(約440万円)納税したと記述しましたたが、Vestas Wind System A/Sの従業員の中にも同額程度の納税している人が数多くいるものとみるためです。

  MHI Vestas Offshore Wind社の創業とデンマーク社会への貢献について

20144月三菱重工業とデンマークの風力発電機メーカーVestas Wind System A/S が各1億ユーロを出資して創業したのがMHI Vestas Offshore Wind社(以下三菱・べスタス社で引用)です。同社の創業目的は洋上ウインドファーム用の風車の開発と製造販売です。創業当初の従業員数は約300人と語られていました。創業から5年が過ぎ、三菱・べスタス社の業績は確実に伸びていると見て良いと思っています。何故ならば、創業以降3年間は赤字経営が続いていたのでしたが*2018/19年会計年度(会計年度は41日~331日)では5,300万ユーロの黒字になったと語られているためです。*三年間の累積赤字額は26300万ユーロと言われている。

2018/19年三菱・べスタス社の売上高は13億ユーロ(前年度9億4,220 万ユーロ)でEBITDA*2017/18年のマイナス780万ユーロから2018/19年のそれはプラス11,260 万ユーロに改善し、当期利益額は2017/189,830万ユーロ赤字から、2018/19年会計年度では5,300万ユーロの黒字なったと語られています。従業員数は対前年度比23%増の2704人(前年度2193人)に増えたと語られています。創業当初約300人に従業員でスタートした三菱・べスタス社の従業員数が5年後、9倍に増えた裏に、同社の風車への需要が急増しているため、と思えます。*EBITDAとはEanings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略で、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益を指す。

2019822日の1330分、デンマークの王子がデンマーク最大の洋上ウインドファームの起動スイッチを押しました。このウインドファームに採用されたのは三菱・べスタス社の機種です*。今後三菱・べスタス社の風車は世界の海に建設(設置)されていくはずです。その市場として有望な国は、イギリス、ドイツ、ベルギー、台湾、アメリカそして日本**と言われています。2018/19年時点における三菱・べスタス社の受注量は8プロジェクト、2,871.5MWと言われています。 *洋上ウインドファーム名はHornsRev3,設備量407MW,機種と台数:三菱・べスタス社の8.3MW 49基、年間見込み発電量は約17千万kWhで,一般住宅の425,000世帯分の電力消費量に該当。売電価格(入札価格)0.77kr/kWh (13/kWh). **北九州市若松区の響灘洋上ウインドファーム220MW用風車として三菱べスタス社の9.5MWを選択したと報道されている。

上記のデータで言えることは、三菱・べスタス社とその従業員は洋上用風力発電機の製造と販売を通しデンマークに法人税や個人所得税という名目の納税に貢献しているということです。

   デンマークに投資する国々と将来への労働市場について

世界の中でもっとも幸せな国民と言われているデンマークには国外からの投資が増えています。この中にはアメリカのアップル社による大規模はデータ・センターの建設(ユトランド半島中部に所在するViborg市に隣接、Foulum Datacenterと呼ぶ)があり、2019年秋にオーデンスの郊外に約4億クローネ(約68億円)かけ53,0002の建物を建設したFacebook社があります。また、近い将来、石油会社シェルがデンマークにヨーロッパ最大の緑の水素工場*を建設すると発表しました。* P2X-plants と呼ばれる装置でデンマークの安くて*有り余る風力発電機からの電気を利用して水素燃料を作る装置をデンマークの会社とシェル石油が1億5千万クローネ(約25.5億円)で建設する。*201910月におけるデンマークの風力発電の市場価格はキロワット時当たり0.24クローネ(約4/kWh)となっています。

この他、デンマークを含め北欧に投資(企業買収)をしている国々について、その投資金額と国別の割合をみますと表3の通りです。 

3.北欧諸国に投資する主な諸外国と投資額(2018年末)

 

投資国籍

買収・投資額

単位:10億ユーロ

国別割合

アメリカ

53.1

32.6

イギリス

31.5

19.3

中国

20.5

12.6

ドイツ

16.5

10.1

カナダ

14.1

8.6

フランス

11.0

6.7

日本

9.3

5.7

スイス

3.6

2.2

オランダ

2.3

1.4

スペイン

1.2

0.7

163.1

100.0

デンマークを含め北欧諸国の企業が国外資本によって買収されることは、デンマークに新たな雇用生み、それによる新たな納税が生れてくるだけに、デンマーク社会としては大きなプラスとなります。

デンマークのオイルショック以降に生まれた産業の中からエネルギー部門の輸出額の推移を現したのが図7です。デンマークのエネルギー技術の輸出先で最も多いのはイギリス、次はドイツ、そして三番目にアメリカとなっています。2017年の数値を見ますと輸出総額は850億クローネ(1.45兆円)でその内の約100億クローネ(1,700億円)はエネルギー技術サービスとなっています*。デンマークのエネルギー機器及び技術サービスの輸出額はヨーロッパ諸国内ではトップ、デンマーク政府はこの地位を維持するだけではなく、2030年には少なくとも輸出額1,400億クローネ(約2.4兆円)に伸ばすための支援策として予算17千万クローネ(約30億円)計上しました。*この中には風力発電所のサービス・メンテナンス契約料も含まれる。

まとめ

筆者は、デンマークは持続可能な社会だと書きました。その理由として、国民の殆どは少なくとも、経済的に将来の生活に「不安」を抱いて暮らしているとは思えないからです。デンマークは国民と企業からの納税によって国民が必要とする経済的支援が賄かなえています。本稿ではデンマークの業界の中から日常生活に欠かせない食糧輸出、医療品の輸出、それで得た収益による納税額、雇用による所得税と労働市場基金の納税について触れました。そしてまた、オイルショックの教訓を活かして生まれた風力発電業と、その輸出そして雇用によって発生した所得税と労働市場基金の納税についても触れました。日本の人口に比べ22分の1のデンマークで、一人当たりの輸出額は日本のそれに比べ5.6倍に多いことも触れました。デンマークの国民生活を維持している財源は国外から調達していると言って過言ではないと思っています。

筆者は、デンマークの小学校に研修生を案内しています。100人にも満たない小学校でも全校が無線Lan、生徒にはパーソナルコンピューターを配り(小学校3年生からは一人1台市が配る)黒板は無く、電子ボードを使い、教材の一つとして起業家となるためのノウハウを身に付けるソフトプログラムがあります。デンマークの産業連盟の提供ですが、小学生の段階から起業するためのノウハウを身に付けるための教育を受けています。そして国際社会人として働くために必要な英語教育は、小学校1年生から始めています。持続可能な社会や国家はこのような教育過程を得た子どもたちによって創られているように思えます。

最後に本稿ではデンマークの歳出に関しては触れませんでしたが、デンマークの国家予算は黒字です。そんなことで、デンマークの国家予算には国債費という歳出項目はありません。

それでは皆さま良い年末年始を迎えてください。

 201912月 デンマーク、ウアンホイにて

        Kenji Stefan Suzuki

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