デンマークの税収入、教育と生産性(20230413)

 デンマークの税収入について

デンマークが世界で最も持続可能な社会を営んでいると語られている背景には国民生活に必要なお金があるということです。約百万人とも言われている国民年金者の年金は国庫から出て、学生の生活費も国庫から出ていますが(注1)、それを可能にしている裏にデンマークの税収入が増えていることです。納税額は国家の「健康診断書」ですので、納税額が増えていえるか否かによって、その国の経済状態(持続可能か否か)が推察できるとものと思っています。表1はデンマークの税収入の一部、納税額の伸びを金額と率で表したものです。

1:国民年金支給額(月額、税込み)単身約15,500クローネ(31万円)、夫婦一人当たり税込み月額約10,600クローネ(約20万円)学生への生活費として支給される金額は月額6,600クローネ(約12万円)

表1.デンマークの主な納税額の推移(11年間での伸び)

単位10億クローネ

2010

2020

伸び率+/-

a. 所得税計

427.4

595.8

39.4

内 国税

129.7

204.6

57.8

  地方税

193.1

262.9

36.1

  労働市場掛け金

80.9

105.2

30.0

  不動産税

12.6

14.9

18.2

  その他個人所得税

11.1

8.3

- 25

b. 法人税

41.1

61.1

48.7

c. 年金所得税

36.5

48.0

31.5

a.b.c.の 合計額

505.0

705.0

39.6

間接税計

265.0

326.1

23.1

 内 消費税

171.6

224.0

30.5

(Kilde: Statistisk Tiårsoversigt 2021 s. 141)

表1から読み取れることは、2010年から2020年の11年間に納税額が約39%増え、法人税は約48%増えたことです。この背景は解り易く言えば、皆で良く働き、沢山税金を払い、沢山物を消費したこと、それと項目c.で見る通り、沢山貯金もしているということです。つまりこの11年間にデンマークの人たちの生活が豊になったということが言えると思います。

それではデンマークの人達はどうしてこのお金を稼ぎだしたのか。

 

デンマークの教育と生産性について

デンマークの所得税や法人税を増やしている後ろには、国内市場が小さいデンマークの業界は国外に向け市場を開発してきました。その結果が輸出入額で見ることが出来ます。国外との物の交易だけの、2010年から2020年の伸びをみますと、輸出額の伸び率は36.1%、輸入額の伸び率は37.1%となっています。この間の貿易収支は毎年出超(黒字)で11年間の累積額は8914億クローネ(約17.8兆円)となっています。(参考:2011年~2020に日本の貿易収支額は約32.2兆円の入超=赤字)。

デンマークの貿易収支を支えている背景には、国と地方自治体が国民教育に多くの税金を使っている(予算総額の約12パーセントが教育費)ことです。デンマークでは日本で言う「不登校生」は、殆どいません。理由は、子供達は教育を受ける義務がありますが、登校の義務はないためです。デンマークでも当然、授業について行けない子供たち、あるいは学校が面白くないと思っている子供たちがいます。そんな子供に対して、教育を指導するために導入されているのは教育指導制度(Uddannelsesvejleder)です。この制度の導入目的は、全ての子供達が25歳までに何等かの資格を取得し、それを基に自活できるようにするための教育指導です。

デンマークの義務教育で最小限求められているのは、9年生(日本の中学3年生)の教育を終えたという資格です。この資格がないと、あらゆる資格が取れる教育を受けることが出来ないためです。そして9年生の卒業資格で、求められる最小科目は算数と国語そして英語のみです。つまり、この三教科を国の資格を得るための進学条件としたのです。ですから、左官、大工、床屋、庭師などありとあらゆる職種への教育制度を採り入れていますが(注2)、その教育を受けるためには義務教育での三教科を終えたという証明が必要です。そして職業教育機関は国と地方行政そして業界との間で作り、職に就くための教育制度を採り入れたのです。

(注2):デンマークの中卒後から受けられる職業教育は大きく分けると4分類されています。①食料、農業及びサービス(全部で19職種) ②事務、通商及び商店(全部で5職種)、③技術、建設及ぶ運輸(全部で73職種)、④介護、健康及び教育(全部5職種)。そしてこの中の①での19職種とは例えば庭師、製パン、製菓、床屋、ゴルフ場整備、ウエーター、受付、山及び自然管理などへの資格教育です。教育年数はその職種によって異なりますが、例えば庭師の資格を得るための教育期間は311カ月から4年半です。この教育期間の約半分が職場での実習、実習期間中は「見習い給料(elevløn)」が出ます。その額は税込みで月額1万クローネから1万5千クローネです(20万から30万円)。

庭師の資格を得た人の給料は働く職場には関係なく労使間で決めた額、例えば2022年月額税込み3万クローネ(約60万円)となっています。

上記の制度を採り入れた結果、デンマークの職場で働く人達は就職する前に仕事の内容と処理を知って上で就職しているということです。そして就労者は新しい情報を得て職場に就くため、職場での改革や発展に貢献し事業の発展を生み、そのことで所得も増えているのです。また、デンマークの労働時間は、雇用者連盟の団体と労働者組合の団体との間で週37時間と決めており、例えば、筆者の隣に住む20代後半の電気工事職に就く人の勤務時間は、月曜日~木曜日午前7時~午後4時まで、金曜日は午前7時から午後1時となっています(拘束時間の内1時間は休憩時間に充てている)。職場は忙しくても残業はしない、そのことで子育てや家庭生活が守られ、さらに3週間の夏休みを取る権利を全ての就労者が持っています。

デンマークの税収入が増えている理由の一つは、勉強が嫌いな子供(たち)にも働くための教育を施し、そのことで生産性を生み納税しているためです。

下記は「風のがっこう便り2020」に掲載した記事の一部の抜粋ですが、教育費と生産性について、コペンハーゲン大学卒業生の例を紹介します。

 

デンマークの学校教育では「授業料」が無く、教育費は国が負担し、学生の生活費も国が負担しています。それだけに、投資した教育費に対し納税者はどれだけの成果を生んでいるのか知る権利があります。そのことがあってかもしれませんが「コペンハーゲン大学の起業家*」という報告書が出ました。Iværksætteri på Københavns universitet.

コペンハーゲン大学に就学している学生数は約42,000(内訳:学士22,000,修士 17,000, 博士3,000)、教授数約4,500人、職員数約4,500人、大学の運営費は国庫負担で2019年の予算額は89億クローネ(約1,700億円)となっています(ウイキペディア情報)。そしてコペンハーゲ大学卒業生の社会への貢献度について、同大学卒業生の起業家データでは、2001年~2016年の16年間に年間平均290件の起業にあたる4,637の事業を立ち上げたと書いていました。そしてこれら起業家による国内への経済貢献は2016年で見ると280億クローネ(約4,500億円)となり、このことで新たに75,000人の雇用を生んだと報告していました。コペンハーゲン大学の卒業生の国内経済への貢献額が、年約280億クローネに対し、国から出資額が89億クローネであるので、国から見たコペンハーゲン大学への投資利回りは約3.1倍(280/89=3.14)になり、国にとっては良い投資になっていると思います.

 

下記図1はデンマークの輸出額に占めるエネルギー技術及び機器の2010年から2020年までの推移です。額の単位は10億クローネ(約200億円)です。緑の棒線は輸出総額に占めるエネルギー技術及び器材の割合の推移です。図1で見る通りデンマークの産業界は毎年800900億クローネエネルギー技術及び機器を輸出してきているということです。この裏に見えるのは教育です。世界が必要な物を作って供給するということでの結果がこの数値なのです。

この輸出額の中には、風力発電機の輸出が含まれています。デンマークの風力発電機の研究開発の後ろには国と大学そして業界との共同作業があります。その一つが大型風車の試験場を国が作り、そこに風力発電機メーカ―の試作品を建て、その運営管理をデンマーク工科大学受け持っているということです。(この件については「風のがっこう便り2020年③参照こと。)

 

図1:デンマークのエネルギー技術及び機器の輸出額と比率の推移

kilde: Energistatistik 2021

 

国民教育に国民から集めたお金を (税金)を使うことで、全ての国民は何等かの教育を受け、その結果として持続可能な社会が出来ていることを考えますと、日本において約25万人の不登校の子供がいるとの報道を見たことがありますが、人口が減る中で25万人の「不登校」と呼ばれている子供達の将来像はどうなるのか、気になるとところです。少なくとも不登校になった(なっている)子供達が就労し自立できる教育制度を採り入れることが、教育に携わる人達の職務であり、また政治の責任だと思っています。

日本の国民教育の目的は学校教育法で語られている通り、大学入試のためにされているのではなく、「社会について、広く深い理念と健全な批判力を養い、個性の確立に努めること」(日本の学校教育法、高等学校における教育の目標)と定められています。

不登校になった(なっている)子供達への個性の確立を考えますと、教育に関与する人達に、何故子供たちが学校に行くことを止めたのか。その理由が問われると思います。

学校の授業について行けない、学校が面白くない、そのことで「不登校」になったということであれば、何等かの対応策があると思えるためです。

 

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デンマーク、ウアンホイにて

2023413

 

 

ケンジ ステファン スズキ