デンマークの農業部門への炭素税導入と、デンマークの穀類の収穫量(20241205)

デンマークの農業部門への炭素税導入について

 

デンマーク議会が、地球の平均気温上昇を1.5℃以下に抑制するための予防策として、2019年12月6日、気候法(Klimalov)を導入したことに関しましては、HP原稿で紹介し(デンマークの気候温暖化防止対策について20200108号)、日本の科学者2020年9月号に掲載しました。気候法導入の目的は、2030年までにデンマークの温室効果ガスの排出量を1990年の基準年に対し70パーセント削減するためです。気候法の目標を達成させるため、今年(2024年)8月29日デンマーク議会は新規に「Ministeriet for Grøn Trepart」緑の三団体省(仮訳)を設置しました。この省は、政府与野党間と緑の団体(農業と食糧組合、デンマーク金属組合、デンマーク産業界、デンマーク自然協会、デンマーク都道府県団体)等の関係者で出来た組織です。初代大臣に就任したのは1978年生まれの社会民主党議員Jeppe Bruus Christensen です。この新規に設立した「緑の三団体省」は、今年11月18日に、農業関係者との間で向こう100年とも言われる農地改革策に合意しました。この政策の導入目的はデンマークの農家が出す二酸化炭素を減らすことを目的としたものです。

図1はデンマークの業界別に見た地球温暖化ガス(二酸化炭素換算)の1990年から2023年までの推移です。2023年におけるデンマークの二酸化炭素の排出量は約3,800万トンで1990年の約6,100万トンに比べ約2,300万トン削減しました。1990年デンマークの地球温暖化ガス排出量は約6,100万トンで農業、林業、漁業部門以外の業界からの排出量は減っていますが、農業、林業、漁業部門からの排出量1990年から2023年に至るまで、あまり減っていなことが解ります。

 

図1:デンマークの部門別にみた地球温暖化ガスの排出量推移(単位;1,000トン上から

グラフの内訳 下から「農業、林業、漁業(内95%が農業部門)」「産業界」「熱電等供給事業団体」「その他業界」

(Kilde: Danmarks Statistik)

デンマーク議会が気候法で決めた2030年までに、温暖化ガスの排出量を、1990年に比べ70パーセント削減するためには、農業部門からの二酸化炭素の排出量を減らさない限り、目標達成が困難とみて、この「緑の三団体」による合意となりました。

農業部門が排出した二酸化炭素換算における温暖化ガスの量は1990年約1,600万トン、2023年約1,300万トンで、内訳は図2の通り。

図2.デンマーク農業部門の二酸化炭素排出量(単位:百万トン)

グラフの内訳 下から二酸化炭素(CO2)、亜鉛化窒素(N2O),メタン(CH4)です

 

「緑の三団体」間で合意された政策は以下の通りです。

2030年における二酸化炭素の削減量18~260万トンを目標として

― 家畜からの排出量(二酸化炭素換算トン当たり)に対し2030年からトン当

たり120クローネ課税し、2035年からは300クローネ課税する。

― 肥料(石灰含め)による排出量を2028年~2030までに段階的に削減することを条件にトン当たり750クローネ 

― 炭素質を含む沼地や湿地帯14万ヘクタールの耕作破棄

― 農地面積25万ヘクタールへの造林

沼地や湿地帯14万ヘクタールの耕作破棄と農地25万ヘクタールへの造林合わせると約40万(39)へクタールとなり、デンマークの農地総面積約262万ヘクタール約14.9パーセントがこの「緑の三団体」によって合意された農地の二酸化炭素削減の対象になります。

デンマーク政府議会はこの施策を遂行するために「デンマーク緑地基金(Danmarks Grønne Arealfond)」を新設し、農家への補償額などとして430億クローネの予算を計上することを決めました。このデンマークが導入した政策の結果&効果についてはまた追って報告します。

 

② デンマークの穀類の収穫量

 

2024年デンマークの穀類など収穫期における天候は雨降りの日が多く、穀類など農作物の収穫が思うように進まなかったこともあり、2014年~2023年の平均値に比べ9.1パーセント少ない760万トンになったと報道されました。

表1.デンマークの収穫量の推移 単位は1万t

 

(kilde: Statistisk Tiårsoversigt 2023, s.80)

表1で見る通り、2024年におけるデンマークの穀類、菜種及び豆類の収穫量は2023年と共に2022年以前に比べ減りました。減収は収穫時における雨降りの日が続き、収穫が出来ないためが主な理由でした。地球の温暖化現象でスカンジナビア半島や北ヨーロッパ諸国の気温が今後下がるとも語られており、結果として収穫時に不順な天候状態が頻繁に起きることが推測されています。 デンマーク政府議会は、1992年5月電力と化石燃料に対し二酸化炭素税を導入し、それを財源に今日の再生可能エネルギー資源を利用した熱電供給策及び省エネ策への補助金に充て(注)、その結果として自然エネルギー先進国と語られるようになりました。

(注)二酸化炭素税額(歳入)2020年~2023年、平均年33億3200万クローネ(約730億円)。

そして今年農業部門に対し二酸化炭素税を導入し温暖化ガス削減に向けた施策への補助金に充てることにしています。 その一つは既に触れましたが、25万へクタールの農地への造林策を決めたことです。どんな木を植えるかまだ報道されていませんが、25万ヘクタールへの造林に必要な苗木数は10億本とも言われています。この先、苗木を育てる植林業界が多忙になり、また10億本の若木が成長し自力で生育するまでの最初の3年間はメンテが必要と語られており、これにも機械や人出が必要です。結果としてデンマークの地球温暖化防止への造林策が新しい産業を生み持続可能な社会の発展に繋げることになると筆者は見ています。

読者の中には、上記で触れたデンマークの国策が農家の反対無しで受け入れられているのを不思議に思い、恐らく日本では考えられないことではないかと思います。何故ならば、語られている農地への補償額は1ヘクタール当たり75,000クローネで、農地の価値はヘクタール当たり20万クローネに比べ3分の1です。それでも農地所有者がこの政策を受け入れた背景には政府と行政そして農地所有者との間に信頼関係が、あるいはデンマーク人の皆で住みよい国を創るという長い歴史の中で育てられた思考が働いているためだと思っています。

 

良い年末年始を迎えてください。

2024年12月5日

デンマーク、ウアンホイにて

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