デンマークの農業について(20240605)

① 農産品の生産量

デンマークの人口は毎年増え、2024年5月現在の人口数は、約600万人です。この600万人の人たちは、毎日何かを食べて暮らしていますが、大多数は朝食から夕食までデンマークで生産された物を食べています。例えば朝食ではパンやヨーグルトなどの乳製品を取り、昼食ではパンやハムの肉製品、夕食ではジャガイモに牛豚鳥肉などが主なメニューとなっています。これら食材の殆どはデンマークで生産された物です。

デンマークの農家戸数は毎年減り、例えば2010年の約42,000戸から2020年には約31,000戸に減りました。耕作面積は2010年約265万ヘクタールから2020年262万ヘクタールと10年間で約3万ヘクタール減りました(参考:2020年における日本の農地面積437万へクタール)。その結果、農家一戸当たりの耕作面積は、2010年の62.9ヘクタールから、2020年には79へクタールに増え、この中には数百ヘクタールを耕している農家も珍しくなくなりました。デンマークの耕作面積の約半分にあたる約136万へクタールは主に小麦、大麦の生産地として耕作し、大麦と小麦の一部は豚肉の生産用の飼料として使用していますが多くは輸出しています。デンマーク農家戸数は減りましたが、下記表1で見る通り生産量は多少の増減がありますが、一定しています。

表1.デンマークの乳製品と肉類の生産の推移(単位:百万kg)

品目

2000

2018

2019

2020

2021

人口一人当たり(*)

乳製品計

4,720

5,694

5,693

5,745

5,722

953.7kg

内 バター

46

74

75

73

80

13.3kg

  チーズ

306

452

457

468

455

75.8kg

牛肉

171

142

137

133

134

22.3kg 

豚肉

1,748

1,967

1,864

1,952

2,082

347kg

鶏肉

205

159

169

166

163

27.2kg

47

61

61

62

62

10.3kg

Source: Facts & Figures p.62 table.4.4(*) 2021年の 生産量を人口数で割った数値

デンマークにおける一人当たりの肉類の消費量は、年間約95.2㎏と語られており、表1で見る通り、2021年における一人当たりの肉類(豚肉、牛肉、鶏肉)の供給量の合計が396.5㎏であることから、消費量の約4.2倍で、多くは輸出しています。

2021年における輸出量全体に占める食糧品の割合は16%ですが、他に農業関係の輸出として農業機械技術やバイオ製品の輸出が6%あります。よって農業部門の輸出量は全輸出量の22%となっています。食料品の主な輸出国はドイツが最も多く全体の15%、スウエーデン(9%)、香港を含めた中国(8%)英国(5%)他ポーランド、オランダ、フランス等です。因みに2020年のおける日本のデンマークからの輸入総額は2,483億円でその内の608億円(24.5%)が食料品となっています。

デンマークの穀類生産量(小麦、大麦、ライ麦、オート麦など)は年約9百万トンで、小麦と大麦が全体の約90%を占めています。麦わらの生産量は約310万トンです。他にジャガイモ約240万トン、砂糖大根約250万トン生産しています。家畜の飼料なる草類は約1,500万トン、サイレージ用のトウモロコシ約700万トンが生産されています。

図1は穀類の供給が間に合っている国々(青色)と足りない国々(白)です。今日において穀類の供給が間に合っている国々は36ケ国あり、これらの国々が不足する国々に供給しています。図1で見る通り日本も穀類の自給が出来ないため、世界各国から輸入しています。日本の小麦の自給量は約85万トンに対し輸入量は約480万トン(2017年~2021年の年平均)となっています。2020年における日本の穀類の輸入額は約7,700億円になっています。

 

図1 穀類の供給国(青)と依存国(白)

 日本における穀類の主な輸入国と額(2020年)

   1. アメリカ:3,515億 円

   2.カナダ: 849億円

   3.オーストラリア:505億円

   4. タ イ:243億円

   5. EU456億円

    内デンマーク:7.8億円

 

  (出典:日本統計年鑑令和5年、174頁)

 

22030における主な食料品の見込み需要量

図2,20192021の平均値に対し2030年に見込まれる主な食料品の需要量(白の棒グラフ).

食料品目左から:小麦、米、牛肉、豚肉、鶏肉、新鮮な酪農品、バター、チーズ、粉ミルク、魚。

(kilder:  図12、とも Klimaplan 2030s.13 og s.17)

図1、2はデンマークの農業理事会(Landbrug &Fødevare F.m.b.A. 英訳 Danish Agriculture & Food Council) が2030年への気候計画に向けて書いた資料からの抜粋です。食料品の需要が今後とも増える中で気候変動と合わせデンマークの農業の在り方について記述しています。何れにしましても食料品を国外に依存する国々は国民の生活を保守するために可能な限り自給率を高めるための施策が必要だと筆者は見ています。

デンマークの農業の強みは、農業従事者としての教育を受けた(資格を得るための教育年数は4年)優秀な人材が不足していないということです。以前のHP原稿でも触れましたが、デンマークの農地は風力発電や太陽光発電の場所として利用されていますが、この他に家畜の糞尿を原料としたエネルギー供給施設バイオガスプラントがあります。デンマークの農業から生まれてバイオガスプラント(**)の業績の一例を記述します。

** デンマークのバイオガスの仕組み等に関し、筆者の著書、増補版デンマークという国、自然エネルギー先進国、第4章に記載しています。

 

② デンマークの農業とバイオガスプラント

デンマークのバイオガスプラントは家畜の糞尿に産業界から出た有機廃棄物を加えて発酵させメタンガス(CH4)を採り出す装置です。

表2はデンマークの1990年から2022年における再生可能エネルギー生産量の推移です。この中でバイオガスの生産量は1990年の0.8PJから2022年28.8PJと36倍に増えました。2022年におけるバイオガスの燃料価値は石油換算で約55万トン(22.8JP x 24,000トン)となりました。デンマークはウクライナ支援策の中にロシアの天然ガスに依存しないエネルギー策を採り入れ、結果としてバイオガスプラントの増設を国策としています。

 

表2.デンマークの再生可能エネルギーの生産量推移(単位:PJ*)

 

1990

2000

2010

2020

2021

2022

1990-2022伸び

風力発電(注1)

2.2

15.3

28.1

58.8

57.8

68.5

  31.1

バイオガス

0.8

2.9

4.3

21.2

26.2

28.8

36.0

太陽光発電

0.1

0.3

0.7

7.5

7.6

11.3

113.0

バイオマス

40.0

54.0

92.3

80.0

83.4

84.0

2.1

内:麦わら(注2)

12,5

12.2

23.3

18.9

21.6

21.2

1.7

その他

2.4

3.5

5.9

13.2

15.3

17.7

2.5

合計

45.5

76.0

131.3

180.6

190.3

210.3

4.6

Kilde :energi statistik 2022, s.5の抜粋)

*PJ: 1PJ=石油換算約24,000トン、電力換算約2億8千kWh

(注12022年設備量計7,084MW. 内陸内4,778MW67.4%)洋上2,306MW(32.6)

(注2)水分の含有量15%の麦わらの燃料価値は1キログラム当たり4kWh

 

前回のHP原稿で(202455日付け)Lemvig 町の住民が世界最大の風力発電を設置したことについて記述しました。人口数僅か2万人の町で日本円にして約37億円を投資しましたが、これを可能にしている住民の経済面での例の一つとして、Lemvig町のバイオガスプラントについて書きます。

Lemvig バイオガスプラントの人件費:

なお、文中におけるクローネの円換算は20245月現在適用し、1クローネ約22としました。

Lemvig  バイオガスプラントの建設年は1992年で投資額は5,500万クローネ (内国庫からの補助金1,400万クローネ得た) でした。当初の発酵漕4基の容量は計7,000 m3でした。その後、2013 年と2016年に発酵漕を増設し現在の4基合わせた発酵漕の容量は28,400m3となっています。バイオガスを採り出す材料をバイオマスと呼んでいますが、その内の80 %は家畜の糞尿(液肥)で、残りは何十種類もの有機廃棄物(*)です。メタンガスを採り出した後のスラリー(液肥)は肥料として農地に撒いています。

(*) バイオガスを採り出す糞尿は有料で、2023年の会計では液肥代としてトン当たり13クローネ農家に支払っています。他の有機廃棄物は過去においては無料で引き取っていましたが、現在有料となりました。理由はデンマークのバイオガスプラントが増えたため、バイオガスの原料となる有機廃棄物はプラント間において採りあいになったためです。

筆者が伝えたいことは、バイオガスプラントの従業員数は当初から僅か9名で運営していることです。その内の3名は家畜の糞尿の運搬に携わるスラリータンク車の運転手です。1名は事務員、残る5名は装置の運営管理に携わる従業員です。2023年の会計報告書によりますと、売上高約3,800万クローネ(約83,600 万円)から生産に伴う材料費など諸費用を差し引き、総利益1,480万クローネを計上し、その中から人件費として約695万クローネ(約153 00円)を支給しています。一人当たりに換算すると約77.2万クローネ(約1,700万円)となり、月額平均約65,000クローネ、日本円で約143万円という金額になります。この額はデンマークの国会議員の給与額とほぼ同じで、Lemvig バイオガスプラントで働く人達は高額所得者ということです。従業員の就労日数は月~金曜日の5日間、就労時間数は週37時間です。それを可能にしているのはプラント内には至る所に制御用のセンサーを取り付け遠隔操作も可能な24時間稼働しているためです。そういうことで夜間及び週末や祝日は無人稼働です。

因みにLemvig バイオガスプラントが支払った年間一人当たりの過去の人件費について見ますと、2019690万クローネ、2020710万クローネ、2021708万クローネ、2022658万クローネで、現在の円換算で、毎年税込み1,500万円相当の労賃が支払われていました。

デンマークの農地は食料品の供給手段以外に風力発電と太陽光発電の電力の供給地として利用し、穀類の生産から出た麦わらはコージェネ燃料として利用しています。そして肉類の生産過程で出た家畜の糞尿はバイオガス生産の原料に使い、ガス抜きした家畜の風尿は作物の肥料として使い(*)。結果として化学肥料の使用の削減に繋げています。

*バイオガスプラントから出た消化液(家畜の糞尿と有機廃棄物の混合液肥)の肥料価値はトン当たり: チッソ(N5.05㎏。、リン(P0.73㎏。、カリ(K4.10㎏。、マグネシウム(Mg0.62㎏。硫黄(S0.35㎏。となっています。

重複しますが、つまりデンマークの農業は食料を確保し、農地は風力や太陽光発電による電力の供給地として利用し、また家畜の糞尿と他の廃棄物を利用したバイオガスプラントを建設し、採り出したメタンガスはコージェネ用燃料として利用し且つ雇用に繋げています。バイオガスプラントから出た消化液(ガスを採った残りの材料)は農地に肥料として使い化学肥料の節減につなげています。

デンマークの2011年から2020年の10年間における貿易収支は、7,072億クローネ(約15.6兆円*)の黒字を計上していますが、この貿易収支の黒字の背景には食料と熱電エネルギーを国内で供給していることも大きな理由となっています。 

(*)参考:デンマークの貿易収支は1987年以降毎年黒字です。

一方、日本の同じ期間(20112020年)における貿易収支について見ますと、輸出総額722.9兆円、輸入総額755.1兆円からして、貿易収支の赤字額は32.2兆円になっています。つまり、解り易く言えば日本人は借金をしながら、暮らしているということです。

デンマークが導入している風力、太陽光、バイオガスの発電や熱供給においては殆ど廃棄物が出ないため、次世代に負担のかからない(廃棄物処理代を考えないで済む)施策でもあることことです。こういうことから、デンマークの農業は社会全体の持続可能な循環型の産業として、オイルショック以降発展し続けてているということです。

日本社会を外から見ていますが、人口数を含め国の規模が大きい日本には、デンマークという小国が導入している食料とエネルギーの自給に向けた国策は参考にならないと思いながらも、デンマーク人に出来て、何故日本人にできないのか、という思案に明け暮れながら暮らしている次第です。理由はデンマーク人の経済面における豊かさの基盤は国土利用における食料とエネルギー自給があるためと思っているためです。

 

デンマーク、ウアンホイにて

202465

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