デンマークで現EU(European Union 欧州連合)*に加盟するか否かの国民投票が行われのは今から50年以上前の1972年10月2日です。国民投票の結果、国民の63.3 %がEU加盟を望み1973年1月1日から欧州連合の加盟国になりました。今日デンマークの輸入額の約73%がEU諸国からの輸入で、輸出の約55%がEU諸国宛となっています。 * EUという名称は1993年からで以前は欧州経済共同体(EEC)と呼ばれていました。
① 欧州議会議員選出選挙
2024年6月現在におけるEU諸国数は27カ国です。(図1)
去る6月9日(日)デンマークでEU議会議員の選出選挙がありました。
EU議会議員総数は720名で内デンマークへの割り当ては15名です。EU議会議員の任期は5年で、デンマークにおける前回の選挙は2019年5月26日(日)に実施されました。イギリスがEUから離脱した日時は2020年1月31日24時となっていますがイギリスの離脱に伴い、デンマークのEU議員数は前回の14名から今回(2024年)15名に増えました。
議員数はその国々の人口数を基にして割当てていますので、人口数が多い国ほど議員数も多く、議員数が最も多いのはドイツ(96議席) で以下フランス(81議席)、イタリア(76議席)、スペイン(61議席)、ポーランド(53議席) と続いています。
EUの統計によりますと、EUの総面積は約400万㎞²、(参考日本約37万8000㎞²)で人口数は2022年の約4億4600万から現在(2023年)約4億4800万人と増えています。(参考:2024年2月現在日本の人口は約1億2400万人)
図1.欧州連合国一覧図
(出典:インターネット)
欧州議会は8つの政治派に分かれています。2024年の選挙の結果による政治派別に見た議員数は図2の通りです。この中でデンマークの議員が所属する政治派はEPP派に保守党とリベラル同盟党から各1名の計2名、S&D派に社会民主党から3名、Renew Europa派には自由党から2名と社会自由党と穏健党から各1名が所属、 ID派にはデンマーク人民党から1名、Grønne/EFA派には社会人民党から3名、Left 派には赤緑党から1名そしてØvrige(その他)派にはデンマーク民主党から1名が所属しました。図2で見る通り、欧州議会ではEPP派(ヨーロッパ人民派)が189名と最も多く、その次に多いのはS&D派(社会民主派)の136名となっています。
図2.政治派別の議員数
(出典:インターネット情報)
欧州連合議会議員の報酬(給料)は、国籍は関係なく一律月額税込み約10,075ユーロ(2024年)です。デンマーク議員の納税後の手取額は約58,500クローネと語られています。それとは別に議会活動費として日当350ユーロ、それに非課税の手当として月額4,950ユーロが支給されると語られています。
② 欧州連合の基本政策
2024年の欧州議会選挙でフランスやオランダの右派系の投票率が増えたと語られていますが、欧州議会の政策変化に繋がることはないと筆者は見ています。理由は欧州連合の政策は、自由、民主主義、平等、法治国家の維持と安定を政策の基本としており、加盟国の内政は影響されないと見ているためです。一方欧州議会の政策の基本は結果としてウクライナ支援策に繋がり、ロシアへの経済制裁策を生み、ロシアへの軍需物資の支援する北朝鮮への制裁へと繋げています。
今年の6月、欧州諸国の外相会議において、ロシアの収入源となっている天然ガスの輸出に繋がる技術や製品の輸出制限、ロシアの欧州諸国内における天然ガスの備蓄の禁止などを含め、新たに14項目からなるロシアへの制裁案を決議しました。
また、デンマークの企業はロシアでの業務活動を制限あるいは停止し、ロシアから輸入していた天然ガスは国内のバイオガス生産を増やすことで賄うことに替えました。これもEU諸国の基本政策を基にしたデンマークの施策と思っています。以前HP原稿にも書きましたが(HP 20240304)、デンマーク政府与野党間でウクライナ支援策の一環として「ウクライナ基金」を設け、長期的支援を続けることを決めたのも、欧州連合の基本政策を採り入れているためと筆者は見ています。
③ 欧州連合の予算と再生可能エネルギー導入策など
EU予算の歳入額の約98%は、各国から拠出金、各種間接税、消費税で、残り2%はその他の歳入となっています。表1は各国からの拠出金額を一人当たりに換算した額ですが、国の人口の大きさとは別な物差しを使って拠出金額を決めています。何故ならば、デンマークは小国にも関わらず、一人当たりの負担金はEU平均の約倍になっていることからも解ると思います。
表1。国別にみた人口一人当たりのEU拠出金額推移、但し上位7か国のみ
(単位:ユーロ)
国名 |
2019 |
2020 |
2021 |
全体(100)の割合 2021年 % |
ルクセンブルク |
614 |
635 |
777 |
0.3 |
オランダ |
446 |
461 |
606 |
6.7- |
ベルギー |
537 |
548 |
599 |
4.4- |
デンマーク |
484 |
499 |
598 |
2.2- |
スウエーデン |
377 |
378 |
501 |
3.3- |
ドイツ |
367 |
373 |
478 |
25.4- |
オーストリア |
388 |
397 |
476 |
2.7- |
EU 平均 |
285 |
295 |
305 |
|
(Kilde: Statistisk Tiårsoversigt 2021 s. 164からの抜粋 )
2022年におけるデンマークの拠出金額は約255億クローネ、一方デンマークが受け取った補助金額は約122億クローネとなり、差し引き約133億クローネの持ち出しとなっています。
デンマークが欧州連合に加盟したことでは社会・経済的に大きなプラスになっています。その一つは食料を供給することで安定した収入が得られる、
近年はエネルギーの供給もあります。このことについて説明を加えます。2022年のEUにおける最終エネルギー消費量の約23%が再生可能エネルギーからのエネルギー供給量になっていますが、2030年までに32%から42.5%に増やす計画を立てています。その政策の一つは、洋上風車導入策です。それによりますと2020年におけるEUの洋上ウインドファームの設備量は12GW(1GW=100万kW)ですが、2030年には60GW、そして2050年には300GWに増設することを目標にしています。デンマークに風車メーカー2社(ベスタス社、シーメンス・ガメサ社は)が所在しますが、毎週のように新たな受注が入っています。これから先も膨大な風力発電機の納品が期待されます。この風車の受注の裏に欧州連合の地球温暖化防止に向けた予防政策がみられます。
その他に欧州連合が多忙となるのはウクライナの復興事業です。ロシアの侵攻と破壊活動が終わっていませんが、既にデンマークの事業団体はウクライナ復興に向けた活動に入っています。この中にはウクライナの電力供給支援策として50万世帯の電力が賄える風力発電設備の提供(HP 20240505) も入っています。
欧州連合の2021~27年における歳出はウクライナの復興費用とは別に「次世代EU(欧州連合)」のための出資枠として20億ユーロを計上し、7項目の出資部門を決めています。この部門では例えば:
1. 欧州連合市場におけるイノベーションとデジタル化
2. 堅強な共同体への構築対策費
3. 環境と自然資源の活用(風力発電や太陽光発電の導入が入る)。
4. 難民と国境対策費
5. 安全と防衛策 (ウクライナ支援金額などこの部門)
6. 隣国と世界策
7. 欧州連合運営策
これらの施策の実現にデンマークの企業が関与することは確実です。
現在EU27か国中ユーロを国の通貨にしている国は全部で20カ国ありますが、デンマークは2000年9月28日国民投票の結果、ユーロ通貨の導入に反対しました(反対53.2%)。デンマーク人がユーロ導入に反対した理由は、国の統治権の喪失につながることを懸念したためです。
EU諸国数は時代と共に加盟国が増えています。表2は年代別に見たEU(欧州連合国)加盟国順です。既に触れましたがイギリスは2020年に離脱しました。
表2.年代別に見た欧州連合加盟国
年代 |
国名 |
|
1952年 |
西ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク |
6か国 |
1973年 |
デンマーク、アイルランド、イギリス |
3か国 |
1981年 |
ギリシャ |
1か国 |
1986年 |
スペイン、ポルトガル |
2か国 |
1995年 |
オーストリア、フィンランド、スウエーデン |
3か国 |
2004年 |
チェコ、エストニア、ラトビア、リスアニア、サイプラス、ハンガリー マルタ、ポーランド、スロベニア、スロバキア |
10か国 |
2007年 |
ブルガリア、ルーマニア |
2か国 |
2013年 |
クロアチア |
1か国 |
2020年 |
イギリス離脱 |
計27か国 |
表3.年代別に見たユーロ(通貨)導入国
年代 |
国名 |
計 |
2002年 |
ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ、 アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、 フィンランド |
12か国 |
2007年 |
スロベニア |
1か国 |
2008年 |
マルタ、サイプラス |
2か国 |
2009年 |
スロバキア |
1か国 |
2011年 |
エストニア |
1か国 |
2013年 |
ラトビア |
1か国 |
2015年 |
リスアニア |
1か国 |
2023年 |
クロアチア |
1か国 |
合計 |
|
20か国 |
(kilde: 表2表3, Statistisk tiårsoversigt 2021 s. 163 samt internet)
④ 労働時間の登録に関する欧州指令
2019年5月14日欧州裁判所は被雇用者の労働時間を登録することを雇用者に義務付けました。趣旨は、被雇用者の週労時間と休憩時間を把握し、被雇用者が残業によって過労しないことを目的としています。デンマークでは独自の労使条件を導入していることを理由に、欧州裁判所からの指令の導入は伸ばしてきましたが、今年(2024年) 7月1日から被雇用者の労働時間の登録を始めました。このように、欧州連合は一国政策を越えて介入する施策も採り入れています。
2024年7月5日
デンマーク、ウアンホイにて
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