ロシアのウクライナ侵攻の影響、それと地球温暖化の現象とも思われる乾燥と水不足による水力発電所の不稼働の結果、デンマークにおける電力と天然ガスの価格が急騰し(注1)、それがもとで食糧品も値上がりしています。
デンマークはオイルショックの教訓を活かし、国内資源を利用した電力供給と熱供給に努めています。それが可能なのは国土面積の約61パーセントが農地になっており、殆どの農地は平坦地でしかもデンマークの地形は海に囲まれているため、風力発電に適した風が吹いているためです。デンマーク政府はエネルギー自給を図るため、農地に風車を建てることを認め、その多くは個人または個人の集まりで設置した風車となっています。そのこともあり、デンマークの風力発電設備量は人口(約591万人)1人当たり1キロワット(kW)を超え約630万kWとなっています(2020年)。630万kWの設置量の内訳は陸上に約460万kW,洋上170万kWになっています。2020年末に風力発電設備量は1990年の設備量32万6千kWに対し約19.3倍の伸びとなっています。風力発電による国内電力供給量(2020年)は約58.8ペタジュール(注2)で国内電力供給の約47パーセントになっています。
(注1)電気料金(1kWh当たり):2020年約2kr.が 2022年9月には5.5kr.となる。 天然ガス(m3当たり):2015年~2019年平均1.6 kr.だったのに対し 2021/2022年冬は8.6kr.と値上がり、 2022/23年は30~35kr見込まれ、2022年11月引き渡し価格36kr。となっている。
(注2):1ペタジュールの発電換算は約2億7700万kWh、よって発電量58.8ペタジュールは約163億kWhとなり、この発電量は石炭火力発電量に比べ約1250万トンの二酸化炭素の削減量となる。
デンマークの農業の特徴は肉と酪農を経営基盤としており、デンマークの農地面積は約260万ヘクタールで農地の80パーセントは家畜の餌を確保するために利用されている。農場主の中にはその農地に風車を建て、家畜の糞尿を利用してバイオガスを採り出し、そのガスを発電と熱を供給するコージェネ発電所を運営している人(達)が居ます。その他発電所や地域暖房会社に麦わらを売却し農場収入に繋げています。デンマークの農家がエネルギー事業に参加出来ている背景にはエネルギー部門への投資に対し、銀行から融資を受けることが出来るためです。例えば風力発電への投資に対しては、自己資金として投資額の10%を確保できれば残りは融資を受けることが出きるためです。風力発電への投資においては、国からも助成が受けられた時期もありましたが2018年2月20日以降系統連系した風力発電機への助成金は無しとなりました。
農家がエネルギー部門に投資するのは安定した副収入を得られることがあげられると思っています。特に2022年に入り、風力発電の売電価格は昨年同期に比べ何倍も値上がりしています(注3)。それに比べ、酪農家の生乳価格、養豚業者に豚肉価格は伸び悩みにあり(注4)、農地の耕作や餌代など差し引くと決して経営上楽ではなく、倒産する農家も出ています。
(注3)風力発電所からの売電価格(1kWh当たり):2021年平均0.35 kr.が 2022年6月1.365kr、7月1.592kr. 8月3.032kr.と急騰している。
(注4):2022年9月豚肉の生産者価格(枝肉)キログラム当たり12.4クローネ、生乳価格(脂肪率4.2%、タンパク質3.4%基準)はキログラム当たり4.51クローネ
デンマークの熱供給源となっているガスの消費量においてはロシアの天然ガスに依存しないことを決め、代わりに家畜の糞尿をベースにしたバイオガスの生産に力をいれています。2022年9月現在デンマークのバイオガス施設数は約190か所と言われており、2022年におけるバイオガスの生産量の見込みはデンマークのガス消費量の約40パーセントに達し、それによって天然ガス輸入額約70億クローネ(約1,400億円)が節約できると報じています。デンマークのバイオガスの導入計画によりますと2030年までにガス消費量の75パーセントはバイオガスで賄うと語っています。因みにデンマークでは灯油を燃料とした熱供給は二酸化炭素削減とエネルギー自給の観点から重税をかけているため減っています。
デンマークの住宅の約65パーセントは地域暖房が敷設されています。地域暖房の熱源は各地域暖房によって異なりますが、筆者の所は熱源の95パーセントは麦藁と太陽熱で賄われています。
筆者の住宅面積は130m2で年間の熱消費量は約10MWhです。固定費を含めた年間の熱代は約11,000クローネ(約20万円)になっています。デンマークの建物は室内温度が18度以下になるとカビなどが発生するため、建物全体の室内温度を18度以上に設定することを勧めています。筆者の場合、室内温度は20度に設定していますが、居間に省エネ策として薪ストーブを設置しています。薪の確保は近くに住む人の林を間伐し切り出した木を無料で頂いています。切り出した木は筆者宅まで林の持ち主がトラクターで運んでくれています。その後チエンソーでストーブに入る長さに切り、太いものは割り、約1年間外乾燥させ、その後木小屋に移動し、薪ストーブの燃料として燃やすまでさらに1年程乾燥させます。これらの作業は子供の頃から炭焼きの手伝いで習得した冬場の業務と思っています。
筆者の住宅に設置している薪ストーブの材質は鋳物で、鉄板で作ったストーブに比べ、何十年使っても煙漏れの心配はありません(鉄板製ストーブは長い間使用していると焼き切れるかひずみが出てくるため、煙漏れが出る可能性が高い)。
デンマークの世帯数約289万の約70万世帯が薪ストーブを設置していると言われていますが、住宅の暖房費の節約を図るためと火を見て過ごす人類の遺伝子がそうさせているのかも知れません。上記で触れましたが、2022年に入り天然ガスそして電力料金が高騰しているため、薪ストーブへの投資が増え、ストーブメーカーは需要に対し生産が追い付いていけない状態にあるようです。それと一方木材燃料も増え、薪の値段が上がっています。この傾向は何時まで続くは解りませんが、デンマーク政府与野党間において、室内温度を10月1日から下げることをきめました。それによりますと高齢者住宅、病院以外の学校を含めた公共施設内の室内温度は19度に下げる(行動上の適切な室内温度は21~22度と語られて通常年はこの温度に設定している)ことにしました。
そしてまたデンマークの電気料金の値上がりで困っている人たちへの支援策として政府与野党が決めた政策は電気料金の中に含めている電気税の引き下げです(注5)。それによりますと家庭用の電気料金に含まれている電気税を2023年1月から6月までの6か月間、現行のキロワット時当たり67,9オーレをEU諸国の最低単価0.8オーレに引き下げるということです。この引き下げによって見込まれる電力料金の減額分は標準的一般家庭の年間電力消費量4000kWhに対し1,700クローネと試算されています。
(注5)デンマークの電気料金の中身:電力購入費、配電会社への送電費、国税(消費調整費、送電費、系統運営費、電気税、消費税)で国税の中の電気税を引き下げることを決めた。
デンマークの政府与野党間において、子供の育児手当の増額も検討していますが、高騰する燃料費以外の物価全体への支援策については、多くの支援を差し控えています。その理由は国庫からの国民一般の支援策はインフレーションの助長を生むこと懸念しているためです。また、デンマークでは近い将来国会議員選出選挙があると語られています。(現政権の任期は2023年6月)そのこともあり、この先、国家経済の運営に責任ある政党がどれか、国民間で注目しているようにも見受けられます。
デンマーク ウアンホイにて