オイルショックの教訓:
今日におけるデンマークのエネルギー政策導入の背景には、イスラエルとアラブ諸国の紛争が原因となって発生した第一次石油供給危機(1973年)があります。
原油価格の推移について見ますと、1972年の原油の価格は1バレル当たり2.57 ドルで取引されていました が1973年には4.85ドル値上がりし、1974年にはさらに11.53ドルに急騰しました。その後『イランとイラク戦争』の影響も含めて、第二次オイルショックを迎え原油価格は1バレル36.89ドル(1981年)まで高騰しました。
この2度に渡るオイルショックの教訓から、日本含め多くの工業国は、中東の石油に依存しないエネルギー供給体制として原子力発電の導入を勧めました。デンマークにおいては第一次オイルショック後『エネルギー計画1976年』において北海油田開発、省エネ、発電燃料を石油から石炭にシフト、90万kWの原子力発電所4基の導入など、中東の石油に依存しないエネルギー政策を発表しました。
この中で原子力発電所の導入に関しては原子力発電所の安全性の問題、廃棄物処理の問題など10年間の歳月をかけ、導入賛否の議論を続け、その結果、1985年3月原子力発電に依存しない公共エネルギー政策という法案を議会で可決しました。
デンマークのエネルギー自給策と廃棄物政策:
デンマークの人達は、北海油田の開発に力を入れるとともに、島国の自然条件を活かした風力発電所の導入、酪農国の条件を活かした家畜糞尿のバイガス化、建物の省エネ政策、可燃廃棄物の燃料化など省エネを含めた国内資源のエネルギー化を進めました。この中で廃棄物の利用に関しては、1990年代初めに産業廃棄物を対象とした「廃棄物と再利用に関する情報制度」(ISAG=Informationssytem for Affald og Genanvendelse)を採り入れ、企業に対し廃棄物のリサイクル化、焼却、埋め立ての量などを『環境・エネルギー省』に報告するという制度を導入しました。この制度の導入によって政府は企業が出す廃棄物の処理状況が把握できるようにしました。それとともに、家庭から出る廃棄物の処理とともに「廃棄物省令」(1993年3月21日付け)を発令し、各市町村は「廃棄物処理に関する計画書」を作成する義務を負い、4年ごとに廃棄物の取り扱いと処理関する総合的計画書が作成されることになりました。この廃棄物計画書においては、各市町村が市町村内から排出される産業廃棄物と一般廃棄物(家庭ごみ)取り扱いと処理に関し、向こう4年間にわたる事業計画を作成すると共に12年先までの事業計画を作成することが義務付けられました。今日適用されている廃棄物計画書は2009年から2012年までの短期・中期計画と2020年(12年先)までの長期計画となっています。
この廃棄物処理に関する計画書(Affaldsplan)では:
・ 廃棄物の取り扱いに関する現状報告として、廃棄物の内容、廃棄物量と処理及び処理施設の現状に触れ、
・ 廃棄物の取り扱いと処理に関する政府目標との関係に触れ、
・ 焼却処理設備容量の報告と埋め立ての容積の報告と計画それに梱包廃棄物の削減化計画に触れ、
・ 廃棄物取り扱いと処理に関する計画導入における経済面の結果について触れることにしています。
この中で廃棄物の取り扱いと処理については、デンマーク政府が出した目標に対する各市町村の達成率が判るようにしました。例えば私の住むヘアニング市のデータでは下記表①の通りになっています。
表①.ヘアニング市における一般と産業廃棄物の処理状況(2007年)
|
トン |
割合い |
廃棄物の内特別処理 を除いた割り合い |
政府目標 (2008年) |
リサイクル |
134.900 |
67% |
69% |
最低65% |
焼却(燃料化) |
51,271 |
25% |
26% |
26% |
埋め立て |
10,146 |
5% |
5% |
最大 6% |
特別処理 |
6,078 |
3% |
|
|
合計 |
202,395 |
100% |
100% |
|
(出典:Affaldsplan Herning2009-12)
デンマーク政府は廃棄物取り扱いについてはリサイクル化を最優先し、リサイクルが難しい家庭ごみ、瓦礫、麦藁、汚泥などの可燃廃棄物の燃料化(注1)にランク付けし、リサイクルも燃料化も出来ない廃棄物は埋めたてするというランク付けをしました。
(注1):デンマークでは1997年1月1日から『可燃廃棄物』の埋め立ては禁止しその後、これら可燃廃棄物はゴミ発電所の燃料として使われている。
上記表①で見るとヘアニング市は、国の目標値であるリサイクル率を除く、焼却、埋め立て、においては国の目標値をクリアーしていることが判ります。この廃棄物の取り扱いと処理状況は一方において、表②で見る通り市町村のエネルギー自給率を高める結果となっています。
表② デンマークの地方都市におけるエネルギー資源別に見た自給率(2007年)
市町村名 人口数 |
Holstebro 57,000 |
Struer 23,000人 |
Lemvig 22,000人 |
ヘアニング 84,000人 |
Region Midt (注2) |
Danmark 545万人 |
風力 |
6 % |
10.6% |
20.6% |
6.5% |
4.3% |
3.0% |
麦藁 |
6.6% |
6.6% |
1.0% |
2.3% |
3.9% |
0.7% |
木材 |
9.2% |
10.5% |
17.1% |
25% |
11.2% |
5.2% |
バイオガス |
0.1% |
0.4% |
1.9% |
2.2% |
0.4% |
0.1% |
廃棄物 |
22.6% |
12.3% |
2.3% |
4.2% |
4.6% |
7.9% |
再生可能 エネルギー計 |
44.6% |
40.5% |
43% |
40.2% |
24.5% |
16.9% |
(注2)中部ユトランド地区の人口は約124万人、13市町村の平均値
上記表②の中で廃棄物によって市のエネルギー供給の22.6%を賄っているHolstebro市(人口約57,000人)は、市内にある廃棄物発電所がエネルギー自給化を高めるのに大きな役割を果たしています。同発電所の発電設備は2万8千kWですが可燃廃棄物(年間約16万トン)、ウッドチップ(年間約3万トン)、汚泥(年間約6千トン)、麦藁(年間約3万トン)など計約23万トンの可燃物から4万世帯の電力消費量に当たる約1億6千万kWh(キロワット時)を発電し約150万GJ(約2万5千世帯分給湯と暖房)熱量を供給しています。
デンマークは1997年にエネルギー自給を完全に果たし、今日欧州連合27カ国内で唯一エネルギー自給率100パーセントを越える国となり、エネルギーの輸出国になっています。この中で廃棄物のエネルギー化はデンマークのエネルギー自給率を高めるために大きな貢献をしています。
日本の廃棄物政策への私見
1970年におけるオイルショックの教訓から日本政府は原子力発電の導入に力を入れて来ました。その結果、総発電量に占める原子力発電の割り合いは23,6%(1990年)、29.5%(2000年)22.5%(2008年)と電力供給の2割~3割原子力発電で賄って来ました。しかし、2011年3月11日起きた地震と津波の影響で福島原子力第一発電所が大事故に陥いり、今日なお収束のメドが立っていないと報道されています。福島原子力発電所の事故を受け、各地に所在する原子力発電所の安全をチャックするストレステストなどで、多くの原子力発電所は稼動されていないようです。その結果日本各地で電力供給が困難ということから節電を呼びかけているようですが、日本におけるエネルギー供給の可能性を見ていますと、その一つとしてバイオマス燃料化があると思います。例えば、国土面積の65%を占める森林の間伐を通した燃料化、家庭及び産業界から出る可燃廃棄物の燃料化、東日本大震災で出た可燃物瓦礫の燃料化があると思います。デンマークの発電所の中には可燃廃棄物の国内調達が困難になって来たため、イギリスから廃棄物を輸入し始めたモービア発電所の例もあります。
東日本大震災で発生した瓦礫の量は約2,400万トンと言われていますが、この瓦礫をただ燃やしてしまうのではなく燃料化することだと思います。その手段として、日本の一般廃棄物の処理に携わる行政と、産業廃棄物を取り扱う業者、それに森林組合などが協力し合い、可燃廃棄物や汚泥、ウッドチップなどを燃料とした分散型のコージェネ発電所の建設があると思います。日本には地域一帯に熱を供給する『地域暖房』という仕組みが出来ていませんが、暖房や給湯に多くの熱量を消費する日本の家庭に(注3)おいて、発電と共に給湯と暖房が可能な発電所の建設は、日本のエネルギー自給率を高めるだけではなく、二酸化炭素の削減と国内資源の活用による雇用の確保など、多くの利点が考えられます。
(注3)2008年日本の家庭における用途別エネルギー源別エネルギー消費量では総エネルギー消費量約1千万キロカロリーの24.6%は暖房、29.5%が給湯に使われ、冷房は僅か2.1%に過ぎない。
特に日本の廃棄物利用を考える時に、年間約4.2億トンの産業廃棄物の取り扱いと処理について、可能な限り廃棄物のリサイクル化と燃料化があると思えます。何れにせよ、日本の行政と産業廃棄物業界が、廃棄物の利用を通し、日本国のエネルギー自給を高め、二酸化炭素の削減に向けた施策をとることを望んでいます。(了)
2011年12月15日