1.地球温暖化をどう見るか
デンマークにおいても、地球温暖化を問題にしている人たちとそうではない人たちとの間に意見の対立が見られます。地球史の中で温暖な時期が在ったり、氷河期が在ったりの繰り返しで今の地球があり、地球の温暖化問題をあえて語る必要が無いという意見も出されています。そんな中、地球の温暖化の論点をどこに置くか、ということですが、私見は、我々人類の生きる期間において地球の気温の変化によって、我々の日常生活にどのような影響が出るのか、出ているのか、だと思っています。一万年前あるいは千年前の地球の温度はどうだったかに合わせた論議は、わずか百年程度しか生きていない我々には参考にならない意見だと思っているためです。
2.グリーンランド島の氷が解けている
2019年4月23日にPNAS*情報を基にデンマークのグリーランド島の氷がどれだけの速度で解けているか、インターネットで紹介されました。PNAS* : Proceedings of the National Academy of Sciencesの略称
同記事によりますと、グリーンランドの内陸の氷は1986年に比べ6倍の速度で解けていることが解り、その分世界の海水が増え, その結果、解氷による世界の海水の高さは1972年から今までに13.7ミリメートル上がった。その半分は過去8年によるものだと調査グループは語っています。コペンハーゲン大学の研究グループも加わっている国際研究グループは1972年からグリーンランドの内陸の氷の解氷状況を把握するためサテライトによる解氷データを収集しています。そのデータから長期的解氷の進行状況が見えるようになったようですが、特に近年5年~6年の解氷の速度は著しく進んでいる、と報告されています。グリーンランドの氷の量は1970年代年間平均47ギガトン* (*Gigaton の氷の量は1立方キロメートル、km3をいう) 出来て(生産)いたが、1980年代に入り氷の出来る量が減り、2010年代は年間286ギガトンの氷が解けていることが解ったと報告しています。つまり2010年以降解氷している氷の量は毎年286 立方キロメートル(286km x 286 km x 286 km )ということです。
因みにグリーンランドの面積217万5,600 平方キロメートルで、この内の約81%を占める内陸の氷の量は280万立方キロメートル(280 万Gigaton)と言われており、この氷が全部解けた場合、世界の海水は今より、約7.2メートル高くなると試算されています。仮に今の速度でグリーンランドの内陸の氷が解けたとして全部溶けるまでにかかる年数は約一万年となります。 我々人類史から見て、グリーンランドの内陸の氷が全部溶けるまで大変な歳月を必要とし、問題視する必要が無いように思えますが、問題は氷が解けているのはグリーンランドだけではなく、北極の氷全体がそしてまた南極の氷も解けているということです。
グリーンランドの氷が解けている理由は当然地球の温度が上がって来ているためだと思います。よって、なぜ地球の温度が上がった(ているのか)ということに論点を置かず、地球の温度が上がったことで我々の生活に今どんな影響が出ているのか、その実情について見ることにしたいと思っています。
3.食糧生産への影響
デンマークの農業は酪農と肉生産をベースしています。牛を肥育し搾乳する酪農家も養豚農家も家畜を育成するための餌となる草や穀類の生産が必要です。それらの生産にはたくさんの水を必要とします。食糧品となる物の生産に必要とされる水の量は以下の通りですが、我々は農産品いう食べ物を通し、多くの水も消費していることが解ると思います。
食べ物1キログラムの生産に必要な水の量 (リットル)(数値の順位は特に意味なし)
1. 小麦 1,150 6. 牛肉 15,997 11. チーズ 5,288
2. 米 2, 656 7. 豚肉 5,906
3. トウモロコシ 450 8. 鶏肉 2,828
4. 大豆 2,300 9. 卵 4,657
5. ジャパン 160 10. 牛乳 865
(出典:UNESCO, Water-a shared responsibility)
上記のデータで見る通り、一キログラムの牛肉を食べるということは約16トンの水を消費しているということです。地球の温度が上がったためか、デンマークの農作物が必要とする時期に降る雨の量が減ってきています。昨年は農作物の成長期である4 月から7月の降雨量は例年のそれに比べ極端に少なく*その影響で農作物が減収、その結果経営困難で倒産した農家数が100戸(件)とも言われています。今年2019年も既に4月中頃から農家は農地に水まき始めています。幸いデンマークには大量の地下水が埋蔵されているのと、全ての農家に動力用として三相400V.が供給されているので、地下水を農地の捲く放水機を稼働させることには問題はないのですが**、農家が所有する農地面積が数百ヘクタールにもなっているため、幾台の放水機を動かしても撒き切れない農家もあります。しかも地下水をくみ上げる放水機を稼働させるには大量の電力も消費します。
*デンマークの月別雨量 (単位:mm)
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3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
年間雨量 |
通常年平均 |
25.5 |
43.0 |
65.3 |
82.0 |
93.4 |
710 |
2018年 |
6.8 |
38.2 |
25.8 |
28.6 |
- |
412.6 |
2019年 |
0.0 |
30.2 |
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(出典:DMI)
**但し、耕作農地に捲ける地下水の量はヘクタール当たり1,200m3 の規制がある。
4.市民の暮らしへの影響と対策
近年、デンマークの雨の降り方が変わり、集中豪雨*が頻繁になって来ています。平な国デンマークで集中豪雨があると、平地が直ぐ水浸しになり、また下水処理場が一杯になります。そんなことで、デンマークの地方行政は、現在の汚水と雨水の混合した汚水処理を止め、汚水だけ処理し、雨水はそのまま、河川に流すか、それともため池を作りそこに貯蔵するかを決めました。その政策導入は筆者の住むHerning市も同じで、市は今から5年前(2014年)に住宅を所有する全住民に、雨水と汚水を分けて配管する下水工事の勧告(2019年までに同工事を終えるようにとの)を出しました。市が住宅所有者に要求していることは、所有する住宅の屋根に降る雨水と汚水(主にトイレと台所から出る)一緒の下水管にせず、分けるということです。5年経った現在Herning 市の各地区で車道を掘り起こし新たに雨水用と汚水用の下水官を分けての工事をしています。
*デンマークの気象庁による「土砂降り」あるいは「集中豪雨」(デンマーク語skybrud, 英訳cloudburst)の定義は30分またはそれ以内で降る雨量を15㎜以上としている。
Herning市に住む筆者も市の水道局から雨水用と汚水用の下水管の敷設工事を2000年3月1日までに終えるようにとの最後通達を受け取りました。私有地内の配管工事費は住宅所有者の責務となっています。業者に工事の依頼をしましたが、どの位の工事費になるか、工事見積書をまだ見ていないので、解りませんが、3万~4万クローネ(約55万円~75万円)になるのではないかと推察しています。
このようなことでデンマークは地球温暖化による被害への予防策に地方行政も取り組んでいます。また、デンマーク政府は農家の地球温暖化防止に向けた活動を支援するため*、2019年5月3日付けで2,370 万クローネ(約4.2億円)の助成金を計上しました。
* 農家への気候会計報告書導入として気候の負担のかからない農業策への支援、気候に負担とを書かけない建造物や、気候に負担にかからない家畜への飼料への支援。
この他、地方行政が地球温暖化防止への取り組みの例として、二つの行政区が一緒になり住民の自動車での移動を減らすために自転車道路の整備を図ることの計画が出ています。
5.地球規模の視点
デンマークは地球温暖化防止への取り組みと被害への予防策に取り組んでいますが、この背景に行動を起こすための国民が後ろにいるということ。その国民に地球温暖化による被害状況を知らせているのがデンマークの報道機関社です*。その例が下記の情報です。
*世界人口の中で飢餓と栄養失調に陥っている人口数として
・約7億9500万人は健康で活動的食事が出来ないでいる。
・飢餓で暮らしている人たちの多くは開発に途上国に住み、その内の約12.9%は栄養失調
・世界人口の3分の1は栄養失調
‘5歳以下で他界する子ども45%は悪い食事が原因でそのため毎年310万人の子どもが他界。
以上、デンマークの新聞(Kristeligt Daglblad 2019年5月7日付け)からの情報。
地球の生活環境は既に多くの場所で破壊されています。破壊された地球環境は何時になったら戻るのか。それまでにどれだけの人たちが犠牲のなるのか。世界の中で十分な食事が得られない人たちが増え、乾燥で作物が育たない場所からの離農者が増え、集中豪雨で収穫できなくなった作物、追い出された人たち、既に今の段階で生きていけない人たちが増え、その結果として難民が増えています。それに対し、諸外国はどのような支援をすべきか。
2019年5月7日デンマークのLars Løkke Rasmussensen首相は、国会議員の総選挙日を6月5日と告示しました。デンマークの政党数は今13政党に増えましたが、国策の議論になっているのは、難民問題、気候問題そして健康問題(年金者年齢など)の3点です。デンマークの政党政治が、難民や気候問題を取り上げている背景に、国民のこの問題に関する関心が高いためだといえると思います。
(了)
2019年5月8日 ウアンホイにて