農地の世襲制のないデンマーク

 

デンマーク人の特徴かもしれませんが、クリスマスツリー生産から販売までみんなでやる、「協同組合」方式はデンマーク人の得意とする「共生」精神だと思っています。デンマークの国土面積の約60%に当たる260 万ヘクタールが農地面積で、世界の中でも国土面積に占める農地の割合が大きいのは、デンマークだと思っています*。2015年における農家戸数は36,600戸、農家一戸当たり平均農地面積72ヘクタールとなっています。

*農地面積の割合  単位:万ヘクタール

 

国土面積

農地面積

国土に占める

農地面積(%)

中国

95,619

5,146

5

アメリカ

98,315

4,087

4

オーストラリア

77,412

4,055

5

フランス

5,515

2,887

52

イギリス

2,436

注1) 1,718

70

ドイツ

3,570

1,666

46

日本

3,780

注2) 455

12

デンマーク

430

260

60

オランダ

415

184

44

注1)イギリスの耕作地面積は約450万ヘクタールで、多くは自然のままの放牧地及び5年以上耕作してない牧草地が約500万ヘクタール、他耕作放棄地など。

注2)2015年時点での耕作放棄面積約40万ヘクタール

 

デンマークの260万ヘクタール農地の利用(2016年)内訳主な利用地

 小麦畑 約58万ヘクタール

 大麦畑 約71万ヘクタール

 ライ麦畑 約10万ヘクタール

 オート麦畑 5.3万ヘクタール

 ジャガイモ畑 4.6万ヘクタール

 砂糖大根畑 2.6万ヘクタール

 菜種畑 16.3万ヘクタール

 草地・サイレージ畑 49.4万ヘクタール

 クリスマスツリー 1.9万ヘクタール

 

デンマークの農家戸数は毎年減っています。統計数値で見ますと2010年デンマークの農家戸数は42,099戸あり、農家一戸当たりの農地面積は65ヘクタールでした。それが、2015年においては、農家数は36,636戸と5,463戸の農家数が減り、一方農家戸数が減った分だけ、一戸当たりの農地面積が増え2015年に72ヘクタールになっています。

 

デンマークの農業と日本との大きな違いは、農家の売買が頻繁に行われているということです。親子関係においても親が子供に無償で譲渡することは無く、売却することになっています。売却額はその農場全部または農地の評価額に合わせ売却額が査定されています。

 

デンマークの不動産評価額は農家も含めすべてインターネットで見ることができます。農家以外の不動産、例えば筆者の住む家の評価額が幾らか、住所で検索できます。評価額は一方では不動産税(地方税)の算出根拠にもなっているため、デンマークの不動産評価額が不動産市場の動向に合わせ、議会が調整しています。

例えば、農場の評価額でインターネットで検索すると次の通りです。

筆者が住む村に所在する農地面積約83ヘクタールを所有する酪農家の評価額を見ますと農地の評価額は263万クローネ(約5千万円)で農場全体の評価額は1,280万クローネ(約2億5千万円)となっています。この農場を息子さんが買い取る場合の値段は農地、建物それに以外に耕作機械搾乳牛などの買取額も加算されます。ということは、少なくとも15,000万クローネ(約3億円)の資金を必要とします。そんなことから、農場経営者の多くは銀行融資を受けていますので、農地を耕し生産物の収穫をし、それによって銀行への返済に充てています。

 

デンマークには耕作放置の農地がほとんど見られないのは、農地を放置することが経済的に無理なためで、投資した農地から最も収益が出るものを選択しています。養豚業者は豚の餌となる大麦・小麦*を自給するために、酪農業者は牛の餌となる草地、サイレージ用の草を収穫するために、農地を耕しています。

 *2015年の小麦の収穫量5百万トン、大麦約4百万トン

この結果、デンマーク農業も高齢化が進んでいますが、それでも、農地の耕作放置が見られないのは農地は投資の対象となり、収益を上げる必要があるためです。                             (了)