風のがっこう便り 2015

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デンマークと世界の洋上ウインドファーム

 

1.デンマークの電力供給の約47%が再生可能エネルギー資源

 オイルショック後、デンマークのエネルギー政策では、国内資源を利用してのエネルギー供給に努めてきました。その成果について報告します。デンマークの電力供給に占める再生可能エネルギー供給の割合は下記表1で見る通り、1994年の5.3%から2014 年には53.4 %に増えました。

 20159月現在デンマークの風力発電設備量は499万kW、基数で約5490基(内1MW以下4,358基)あり、設置から20年以上稼働している風車千基以上あります。取り換えの時期に来ている物もたくさんありますが, デンマークの風車の大半は個人又は個人が集まって作った組合が所有しているためか、新規投資額大き過ぎるためか、25年以上稼働している風車が数百基あります。

 

表1.デンマークの電力供給に占める再生可能エネルギー資源別の割合と伸び推移

 

1994

2000

2005

2010

2012

2013

2014

94-14

再生可能エネルギー計

5.3%

15.9%

27.4 %

34.8%

43.1%

46.7%

53.4

913 %

内:太陽光発電

0.0

0.0

0.0

0.0

0.3

1.5

1.8

  -

 風力発電

3.4

12.1

18.5

21.9

29.8

32.5

38.8

1,029

  水力発電

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.0

0.0

 -54.5

バイオマス発電計

1.5

3.1

8.1

11.9

11.8

11.5

11.4

679

内:麦わら(注1)

0.2

0.5

2.4

3.1

1.8

2.1

1.9

669

  木材(注2

0.4

0.7

2.9

6.2

7.5

6.8

6.9

1,810

  廃棄物(注3

0.9

1.9

2.8

2.6

2.6

2.6

2.6

206

バイオガス発電

0.3

0.6

0.8

1.0

1.1

1.1

1.3

396

   出典:Energistatistik 2014 s.12 ,

    注1.麦わら1トンのエネルギー量は灯油約330リットル

    注2.密度の高い(硬い木)ほどエネルギー量が多い例

                :樫の木1m3 =灯油約160リット

    注3:デンマークの可燃廃棄物1トンのエネルギー量は灯油で約250リットル

 

 表1で見る通り、2014年におけるデンマークの電力供給の53.4 %が再生可能エネルギーです。その中で風力発電の占める割合について、デンマークの風力発電協会が発行している機関紙(201511月号)には、201410 月~20159月までの1年間の風車の発電量は消費電力量約335 億kWh41.4%に充たる138540 万kWh発電した、と書いています。

 

 デンマークの国土面積は九州より少し多い43,000km2です。山谷の無いデンマークの国土の約62パーセント、約267万ヘクタールが農地で、陸内の風車の殆どはその農地内に建ち、デンマークの農地は食糧とエネルギー供給地ともいえます。

 オイルショック後デンマーク議会は、集中型発電所の電力のみ供給する発電所を減らし、分散型の発電所の増設を進めその中で農地を風力発電地として利用する政策を採り入れてきました。その政策導入の結果が表2です。

 2.デンマークの発電設備の推移(19942013年)単位:MW

 

1994

2000

2005

2010

2011

2012

2013

2014

94-14

合計

10,767

12,598

13,088

13,450

13,603

14,122

13,810

13,657

26.8%

内訳:集中型

 9,126

 8,160

 7,710

 7,175

 7,175

 7,084

 5,968

5,693

-37.6%

‐電力のみ

 2,186

 1,429

   834

  840

   840

  840

  841

841

-61.5%

‐熱電

 6,940

 6,731

 6,877

6,335

6,335

6,244

5,127

4,852

-30.1%

分散型

   773

1,462

1,579

1,819

1,816

1,829

1,868

1,887

144%

二次*

   339

  574

  657

  638

  635

  634

 574

574

69.43%

太陽光

       0

      1

       3

      7

    17

  402

 571

607

607

風力

   521

2,390  

3,128

3,802

3,952

4,164

4,820

4,888

838%

水力

      8

    10

    11

      9

      9

       9

       9

9

3.8%

出典:Energistatistik 2014,s.14  *木材、麦藁、廃棄物などバイオマス発電とバイオガス発電

 

2.世界に先駆けたデンマークの洋上ウインドファーム

 デンマークの電力会社は世界のさきがけ、洋上ウインドファームの建設に取り組んで来ました。表3で見る通り、デンマーク最初の洋上ウインドファームは1991年に建設された450W11基です。その後、デンマークは洋上ウインドファームの増設を続け201511月現在519基、設備量で約127万kWに増えました。デンマークの洋上のウインドファームの所有者は、一部を除き電力会社です。現在デンマークの電力供給の多くは国や年金基金の資本によって運営されているDONGです。(DONGとは19723月国営のデンマーク天然ガス株式会社が1973年にDansk Olie og Naturgas A/Sに改称して出来た会社です。その後国内外の電力会社を買収統合した他に石油や天然ガスの採掘権を取得し、デンマークのエネルギー供給の発展に繋げている事業団体です)。今日におけるDONGの資本金構成は国が60%、ゴールドマンサックス(アメリカの投資銀行)約19%、デンマーク労働市場基金5%、年金基金2%、その他となっています。

 

3.デンマークの洋上ウインドファームの建設年及び設備量など

名称

設置年

メーカー

基数

出力

 

MW

2014

発電量(MWh)

設備

利用率**

Vindeby

1991

Bonus*

11

450kW

4.5

9,427

0.21

Tunø

1995

Vestas

10

500kW

5.0

14,351

0.33

Middelgrund

2000

Bonus

20

2.0MW

40

93,309

0.25

Horns rev

2002

Vestas

80

2.0MW

160

657,965  

0.46

Rønland

2003

Vestas

8

2.15MW

17.2

65,450

0.43

Nysted

2003

Bonus

72

2.3MW

165.6

575,767

0.39

Frederikshavn

2003

Vestas

3

2.533MW

7.6

23,956

0.34

Samsø

2003

Bonus

10

2.3MW

23.0

79,608

0.40

Sprogø

2009

Vestas

7

3.0MW

21.0

67,114

0.36

Horns rev II

2009

Siemens

91

2.3MW

209.3

939,516

0.51

Hvidovre

2010

Siemens

3

3.6MW

10.8

36,914

0.39

Rødsand II

2010

Siemens

93

2.226MW

207.033

820,616

0.45

Anholt

2013

Siemens

111

3.6MW

399.6

1,781,363

0.46

合計

 

 

519

平均2.449

1,271.083

5,165,356

0.44

 

出典:Naturlig energi ,maj.2015. s.29 *Siemens ** kapacitets faktor 

 

3.DONGEnergyの洋上ウインドファーム建設と運営 

 201510月現在、世界で建設された洋上ウインドファームの累積設備量は8.9 GW(89億kW)と云われ、国別のシェアでは、イギリス57.1%、ドイツ19.3%、デンマーク14.4%でこの3国だけで全体の9割を占めています。これら洋上ウインドファームの建設と運営管理の大半はDongエナジーです。2020年までのDongエナジーの洋上ウインドファームの建設目標値は6500MW650万kW)で、2018Walney 洋上ウインドファーム増設649MWを決めたことで「6,500MWの目標値に一歩近づいたと」同社は発表しています。Walneyウインドファーム総設備量649MWの内訳はSiemens社の7MW47基、MHI Vestas 社の8MW *40基です。Dong エナジーの2020年までにおける主な洋上ウインドファームの建設計画をみると表4。の通りで、設置する風車のメーカーも決めた様子です。*MHI Vestas Offshore Wind A/S

 

表4.Dong Energy 洋上ウインドファーム建設計画

建設年

名称

MW

機種メーカー

2016

Gode Wind 1+2

582

Siemens

ドイツ

2017

Burbo Bank 増設

258

Vestas

UK

2018

Race Bank

580

Siemens

UK

2018

Walney増設

330

Siemens

UK

2018

Walney増設

330

Vestas

UK

2019

Borkum Riffgrund 2

450

Vestas

ドイツ

2020

Hornsea

1,200

Siemens

UK

合計

 

3,730

 

 

 (出典:Finans.dk   28-10-2015

 

4.世界における主な洋上ウインドファーム

 前記の通り、1991年最初の洋上ウインドファームがデンマークに建設され、25年が 経ちますが、この間デンマークの電力会社は洋上ウインドファームの建設と運営に関するノウハウを蓄積し、洋上ウインドファームの電力供給への信頼性を実証して来ました。このデンマークの事例が欧州諸国に波及し、表5で見る通り世界最大の洋上ウインドファームの殆どが欧州諸国内に建設されています。 

 表5.世界最大洋上ウインドファーム25か所

名称

設備量

 MW

国名

機種と基数

起動年

London Array

630

UK

Siemens  3.6MW , 175

2012

Gwynt y Mor

576

UK

Siemens  3.6MW, 160

2015

Greater Gabbard

504

UK

Siemens 3.6MW,140

2012

Anholt

400

デンマーク

Siemens 3.6MW,111

2013

Bard offshore 1

400

ドイツ

Bard 5.0MW, 80

2013

Global Tech 1

400

ドイツ

Areva Multibrid 5MW, 80

2015

West of Duddon

Sands

389

UK

Siemnes 3.6MW, 108

2014

Walney (1&2)

367.2

UK

Siemens  3.6MW, 102

2011(1)

2012(2)

Thorntonbank(1-3)

325

ベルギー

Senvion 5MW, 6

Senvion 6.15MW, 48

2009(1)

2012(2)

2013(3)

Sheringham Shoal

315

UK

Siemens  3.6MW, 88

2012

Borkum Riffgrund 1

312

 

Siemens 4.0MW, 78

2015

Thanet

300

UK

Vestas 3.0MW, 100

2010

Nordsee Ost

295

ドイツ

Senvion 6.15MW, 48

2015

Amrumbank West

288

ドイツ

Siemens 3.6MW, 80

2015

Butendiek

288

ドイツ

Siemens 3.6MW, 80

2015

Dan Tysk

288

ドイツ

Siemens 3.6MW, 80

2015

EnBW Baltic 2

288

ドイツ

Siemens 3.6MW, 80

2015

Meerwind Sud/Ost

288

ドイツ

Siemens 3.6MW, 80

2015

Lincs

270

UK

Siemens 3.6MW, 75

2013

Humber Gateway

219

UK

Vestas 3.0MW, 73

2015

North Wind

216

ベルギー

Vestas 3.0MW, 72

2014

Westermost Rough

210

UK

Siemens 6.0MW, 35

2015

Horns Rev 2

209.3

デンマーク

Siemens 2.3MW, 91

2009

Rødsand II

207

デンマーク

Siemens 2.3 MW, 90

2010

Chenjiagng

Xiangshui

201

中国

1.5MW, 134

2010

(出典Wikipedia, List of offshore wind farms)

 現在欧州において建設中の洋上ウインドファームトップ3は①オランダ600MWGemini機種Siemens 4.0 MW 150基)②ドイツ582MWGode Wind 1&2, 機種Siemens 6.0MW, 97基)③ドイツ(Sandbank 1,機種Siemens 4.0MW, 72 基)です

 

5.洋上ウインドファーム建設工事費

 洋上ウインドファームの建設費は風車を設置する海域のよって大きな差が出てきます。例えばデンマークが2002年の北海に建てたHons Rev洋上ウインドファーム(2MW80基)の建設費はキロワット当たり12,500クローネ(約25万円)と云われ、デンマーク最大のアンホルト洋上ウインドファームの建設費はキロワット当たり25千クローネ(約50万円)です。洋上ウインドファームへの投資は採算が取れるか、アンホルト洋上ウインドファームの例で見ますと、約400MWの建設費100億クローネ(約2千億円)に対し、売電収入は200億kWh(年間発電量約18億kWh12年分)まで固定売電価格は1.051クローネ(約2.1円)になっています。よって、投資額100億クローネに対し200億キロワット時までの売電収入は約210億クローネになるので(200億kWh×1.051クローネ)建設費が回収できるはずです。

 デンマーク最大のアンホルト(Anholt)洋上ウインドファーム(3.6MW111基)の建設費について加筆します。デンマーク議会は2008年エネルギー政策の一環としてアンホルト洋上ウインドファーム建設を決めました。入札に応募したのはDongエナジー1社のみで、DONGエナジーは海水の深さ14メートルの海域にSiemens Wind Power社の風車3.6MW111基風車の建設を決め、売電価格について、Dongエナジーは政府との間に起動年から1213年分に当たる200億キロワット時の発電量に対し、キロワット時当たり1.051クローネ(約2.1円)で契約しました。この洋上ウインドファーム建設工事は2012113日に始め、売電が始まったのは20139月からです。

 因みに欧州諸国における洋上ウインドファームの建設費はメガワット当たり230万~300万ユーロと云われ、その内風車本体の占める割り合は5030%、モノパイル基礎工事代約20%、と云われています。その他にはケーブル敷設代、工事用船舶の借料(一日当たり約15万ユーロ)などがあります。なお、洋上ウインドファームの基礎工事のノウハウを持つ会社としてはMT Højgaard社(デンマーク)があります。同社のホームページに「630個の洋上ウインドファーム基礎工事の実績と持つ」と書いていました。

 

6.洋上ウインドファームの基礎工事代

 デンマークの調査会社「Rambøll」が201211月洋上ウインドファームの基礎工事費に関する調査報告書を発表しました。”Vurdering af fundaments omkostninger for kystnære møller”という題名です(仮訳:沿岸風車の基礎費用に関する評価)。その調査の中で同社は海底との状況に合わせ基礎の種類を3つに分け、どれだけの費用がかかるのか試算しています。この中で3.6MWの風車55基、計200MWの洋上ウインドファームの基礎をモノパイル又はGBSフラット式にした場合の費用は4.55.6億クローネ(約90億~110億円)と試算していました。

 

 7.増大する欧州諸国の風力発電事業と風力発電機メーカ‐の業績について

 コンサルト会社Roland Bergerによると2020年ヨーロッパ諸国における電力の35%は再生可能エネルギー源によって供給され、この内の12%は風力発電によって供給されるであろうと書いています。そして2020年におけるヨーロッパの洋上風力発電の設備量は4000万kWに達すると報告しています。洋上風車の建設で圧倒的優位を占めているのが2004年にデンマークの風車メーカーボーナス社を買収した現シーメンス社(2013年時点で約700基納品)と世界最大の風力発電機メーカーべスタス社(Vestas Wind Power2013年時点で約540基納品)の二社です。

 世界の風力発電の増設は風力発電機メーカーべスタス社の業績で見ることが出来ます。下記表6で見る通り、べスタス社の業績はその年によって売上高&受給量に多少の変動があるものの2014年の受給量は約650万kWで同年の納品した発電設備量は約610 万kWになっています。べスタス社の雇用者数では2014年末で19,669人で2013年末の15,479人に比べ約4,200人増えました。

2015年におけるべスタス社の業績は対前年同期に比べ受給量、売上高とも増えました()。

 べスタス社の株価は201512日の一株241クローネ(32.3ユーロ)から12460クローネ(約61.7ユーロ)と約11ヵ月の間に倍増しました。:20151月~9月までの受給量計6,276MWで前年同期比46%増、売上高538,800万ユーロで前年同期比21%増。

6.べスタス社の業績推移、2009年~2014

 

2009

2010

2011

2012

2013

2014

売上高(百万ユーロ)

5,079

6,920

5,836

7,216

6,084

6,910

受給量(MW

1,990

8,673

7,397

3,738

5,964

6,544

12月末の株価(ユーロ)

42.6

 23.6

 8.3

4.3

21.5

30.40

 

(出典:Vestas  annual report 2014

 

 

あとがき:   

 デンマークのエネルギー政策ではオイルショックを教訓に国内エネルギー資源の活用に努め、その中で特に風力発電機の導入に関しては陸内だけでは無く洋上での建設にも力をいれてきました。

 洋上風車の大きな利点は、風車の設備利用率は陸内にくらべ、高いこと(表3)、騒音や景観への環境負担が少ないことなどから住民からの建設反対は殆どないことです。一方工事費は陸内に比べ高いのですが、売電価格は政府と入札時点で決めているので、建設費の回収が出来るようになっています(例アンホルト洋上ウインドファームの売電価格はキロワット時当たり1.051クローネ約、2.1円)。

 デンマークの風力発電業界は洋上ウインドファームの建設へのノウハウを蓄積し、今日デンマーク含め欧州の洋上ウインドファームの大半はデンマークの会社DONGが建設しています。デンマークの電力供給に占める風力発電設備増え結果、デンマークを含めた4ヶ国(ドイツ、ノルウエー、スウエーデン)の電力の市場価格がこの数年間に半減しました。

 

 デンマークの電力料金は、隣接する3か国との発電設備とその発電量によって左右されますが、今後風力発電の売電価格は上がるかどうか、地球の気候現象によって変わってくると思っています。

 いずれにしましても、デンマークの風力発電事業団体は風力発電設備を国内外に供給することで雇用を確保し、外貨の獲得につなげていることがいえると思います。(了)