2019年中学生の選挙結果

              201921日)

「学校選挙」について

2019115 日付けでデンマークの中学生の選挙について、MLメンバーの皆さまにお知らせしました。その三回目の選挙は、今年 2019 年は 131 日に実施され、その選挙の結果が 21 日に発表されました。ここにお知らせします。               

  学校選挙の結果 2015 年からの推移                                   

(単位:%)                                                                                                  

政党名 カッコ内は政党の記号

2015

2017

2019

自由党ジュニア (V)

26,7

19,1

17,0

社会民主党ジュニア(A)

24,8

15,6

22,6

自由同盟党ジュニア(I)

5,0

13,5

9,9

保守党ジュニア(C)

4,9

12,8

13,1

社会自由党ジュニア(B)

9,5

11,4

11,1

デンマーク国民党ジュニア(O)

12,3

8,4

8,4

社会人民党ジュニア(F)

9,2

5,3

5,7

社会主義ジュニア フロント(Ø)

6,7

6,1

4,8

キリスト民主党ジュニア(K)

0,8

0,0

1,3

オルタナティブ(A)

 

6,4

4,6

新市民党(N)

 

1,4

1,5

99,9

100,0

100,0

 

 

上記表で見る通り、2019 年自由党への投票率が 2015 年に比べ約 9 パーセント減っています。一方でデンマーク社会民主党への投票率は 2017 年に比べ 7 パーセントと増えました。この結果だけで見ると、今年(2019 年)6 月に予定されている国会議員選出選挙において、現在の与党である自由党は、社会民主党に政権を渡すことになるのではないかと推察します。重複しますが、2015 年と 2017 年の選挙結果も掲載します。

デンマークの中学生の選挙

デンマークの国会議員の選出選挙への投票率は、現在の国境が決まった1920年以降、1945年までの10回の選挙において、80%を切れた回数は4回しかありません。投票率80パーセントに満たなかった選挙は1920921日の選挙77.0 %、1924411日の選挙78.6 %, 1926122日の選挙77.0 % そして1929424日の選挙79.7 % 4回でした。

その後, 今日までにデンマークの国会議員選出選挙は全部で26回実施されましたが、この26回の選挙での投票率は全て80%を超え、前回の選挙(2015618日実施)の投票率は86.89%でした。

デンマークの国会議員選出選挙で投票率が高い理由の一つとして、国民に国政参加を呼びかけている団体があるためだと思っています。その団体とは「デンマーク青年評議会(Dansk Ungdoms Fællesråd =DUF)」です。DUFは全国の約70組織約60万人のメンバーの代表によって構成されている団体ですが、この70の加盟組織の中には義務教育期間中の子どもたちを代表する「デンマーク生徒会」、デンマークの各種高等学校の生徒を代表する「デンマーク高等学校生徒組合」、「デンマーク職業学校生徒組合」が加盟している他、8歳から加入でき約3万人のメンバーを擁する「デンマークガール、ボーイスカウト 協会」が加入しています。

「デンマーク青年評議会」の前身は1940625日創立したデンマーク青年連合(Dansk Ungdomssamvirke) で、初代の代表に選ばれたのが神学博士のハル・コック(Hal Koch 1904-1963)です。ハル・コックは、民主政治や民主主義のあり方を若者に継承する必要性を感じ、全国で勉強会を開き、国家への参加を語り歩いた人です。ハル・コックの影響を受けた人たちの中から文部大臣を務めた人や内務大臣を務めた人が出てました。 

デンマーク青年連合はナチスとドイツ軍への抵抗運動を起こした若者の団体「チャーチルクラブ1942年創立」他「市民ゲリラ隊1943年創立」、保守党と国民党の抵抗運動グループ「ホルガダンスク」などのグループによって形成された組織ですが、1945年に現在の名称「デンマーク青年評議会」に変更しました。

 

「デンマーク青年評議会」の活動は「民主主義、責任、尊敬、寛容」を共通理念に置き、国政選挙年齢の引き下げ、「余暇法」の見直し、指導員への手当支払いと改善(デンマークには学校でのクラブ活動は無いためスポーツ関係を含めた指導員への講師料を払うことになっている)を提言しています。

国政参加への年齢に関する提言では、1971年頃当時の国選への投票年齢は20歳で在ったのを18歳に引き下げることを国に提言しました。この提言は1976年の国選には間に合わなかったのですが、1978年の選挙に導入され、それ以降今日の投票年齢18歳として実現しました。

 

「学校選挙」について

デンマークには義務教育に学ぶ8年と9年生対象とし(日本の中学23年該当)、国政への参加を目標とした選挙があります。この選挙の導入を政府の選挙委員会に提言したのが「デンマーク青年評議会」で2009年のことです。そして2015年、始めての「学校選挙(Skolevalg)」が112日当時の社会民主党首相によって公示され、同年129日に実施されました。選挙に参加した8年生と9年生生徒数は全国で75,000人と言われています。

選挙導入の目的は、将来を担う国民の国家及び社会への民主主義の在り方への知識と選挙の意味を知ってもらうことで、その手段としこの制度が導入されました。

選挙期間は3週間、この間に各政党からの代表者を選出し、国政の関心となる政策案を協議し、その中で支持党や、または立候補者に投票する、という仕組みになっています。2015年における主な政治討論会のテーマに選ばれた政策論は、有機食品の消費税削減、高率所得税の廃止、就学支援金の融資切替、売春の禁止、君主制の撤廃など含め全部で25 項目あったと言われています。選挙活動期間3週間においてこれらのテーマを基に、討論会を全国で開催しその討論会にはジュニア政治家を招き入れています。

デンマークの政党はジュニアクラブを所持し、どの政党にも将来の政治家を目指す数百人の中高生が居ます。

 

2015年の選挙に向けて実施された政策討論会数は全国で336と言われています。デンマークの国会議員数は175名で、この他にグリーンランドとフェロー諸島から各2名選出されて計179名がデンマークの国会議員数です。中学生の選挙では、グリーンランドとフェロー諸島から選出無しで、179名のジュニア政治家を選出します。2015129日に実施された中学生の選挙の結果と、同じ年の618日に実施された国会議員の選挙の結果が下記表の通りです。

政党名 カッコ内は政党の記号

国会

議員数

投票率

    %     

学校選挙

議員数

投票率

   %

議員数

比較()

自由党ジュニア (V)

47

26.7

49

27.4

+2

デンマーク社会民主党ジュニア(A)

44

24.8

32

17.6

-12

自由同盟党ジュニア(I)

9

5.0

20

11.0

+11

保守党ジュニア(C)

8

4.9

19

10.5

+11

社会自由党ジュニア(B)

17

9.5

18

9.8

+1

デンマーク国民党ジュニア(O)

22

12.3

16

9.0

-6

社会人民党ジュニア(F)

16

9.2

14

7.7

-2

社会主義ジュニア フロント注1)

12

6.7

11

6.0

-1

キリスト民主党ジュニア(K)

0

0.8

0

0.9

0

   計

175

(注2

 

179

 

 

(注)国会議員数と学校議員数の差、+学校議員数多い

(注1)レッド・グリーン党と同盟関係にある

2)国会議員数175人にグリーンランドとフェロー諸島から各2名選出

上記表に見る通り2015129日の中学生の選挙において自由同盟党、保守党の議員数が実際の国会議員数を上回っていることが見えます。その一方で左派系の議員数が減っています。

デンマークの中学校の選挙に伴う費用は、国会と文部科学省において折半(各50%)することになっており、その額は2015年年から2018年までの4年間で600万クローネ(約1億円)計上しています。学校選挙は2015年以降2年毎に実施しており、2017年に選挙があり、今年2019年の選挙は131日に実施されることになり、113日首相が選挙を公示しました。これによって全国約8万人の8年生~10年生(日本の中学2年生から高校1年生に該当)がこれから選挙日までの3週間、議席獲得に向け、活動を繰り広げることになりました。

 

世界の中で最も汚職が少なく、信頼できる国民関係を作っていると言われているデンマークですが、近年ソーシャルメディアを利用し、「嘘の情報」を意図的に流している人たちがいる中で、何が「嘘」で何が「真実」か見極めるための努力と監視が必要だと思います。デンマークが導入した中学生対象の選挙は、そのことへの対策の一つとして利用できると私は見ています。(了)

2019年1月15日