デンマークのウクライナ支、、国防と財政について(20250305)

デンマークのウクライナ支援について

平和に暮らしていたウクライナ国民が、ロシアの軍隊の侵攻を受けたのが、2022年2月24日、それから3年になります。デンマークは、民主主義国家ウクライナの平和を守るため、多大な支援をしています、このことにについては、今までに2本*のHP原稿でお知らせしました。* 20220322及び20240304 

そして今回3本目の原稿を書くことになりました。

デンマーク政府の情報によりますと、デンマークのウクライナ支援金総額は、ロシアが2022年2月24日ウクライナに侵攻してから、2025 年2月までの3年間に、軍事支援と民間支援を合わせると613億クローネになり、日本円に換算すると約1.29兆円という額になりました。

デンマークの人口が6百万人ですので、支援金額を一人当たりに換算しますと約10,200 クローネとなり日本円で約21万円になりました。

下記表1はデンマークのウクライナ支援金の年度別に見た支援金の内訳です。

 

表1.ロシアのウクライナ侵攻後におけるデンマークの支援額推移

 (単位:億クローネ、約21億円)1kr=21円で換算

  2022年 2023年 2024年 2025年 合計(注1)
軍事支援: 42 273 215 19 555

民間支::

14 16 23 5.5 58
民間支援の内訳:          
  人道及び緊急支援 4.483 1.45 2.40 2.00 10
  復興工事支援 3.101 8.0 8.51 3.5 23
  改革支援 0.45 0.691 0.937   2.2
  平和と安定支援 0.337 0.878 0.439   1.66
  金融と安定支援 4.48 4.57 11   2.0
  保険支援 0.593       0.593
民間と軍事支援合計 56 289 238 24.5  613

(Kilde: Udenrigsministeriet, (注)各年の支援額は約のため、合計額と異なる)

また、デンマークのウクライナ支援額は現時点で、2026年94億クローネ、2027年70億クローネそして2028年10億クローネとなっていますが、増額されると筆者は見ています。理由はアメリカからの支援が見込めないためです。

 

デンマーク政府はウクライナ支援の一環として、ロシア軍のウクライナ侵攻3年目にあたる2月24日、国会に隣接する教会(Holmens Kirke)において、王夫妻、国会議員、ウクライナ大使夫妻他関係者多数を招聘しウクライナ支援の礼拝を企画し国を挙げ改めて支援を確約しました。

 

② アメリカ商品などへのボイコット運動について

デンマークのFacebookグループはアメリカからの商品やサービスへのボイコット運動を呼びかけ既に2万人がこの運動に応じていると報じられています。ボイコットを呼びかけるいるアメリカからの商品の例としてコルゲート(歯磨き材)、ポテト・チップ、コカ・コーラ、トマト・ケチャップ、オシメ等があり他にNetflix, Chat GPT, のネットサービスやGoogle検索サービスなどのボイコットも呼びかけています。2024年デンマークで販売された電気自動車で、トップで押さえていたテスラ車の販売は、電気自動車全体の販売量が増えているにも関わらず、急速に落ち込んでいます。テスラ車の不買い状態はヨーロッパ市場においても同じで、今年1月におけるテスラ車の販売数は、昨年同期に比べ約45%の落ち込みとなったと語られています。デンマークのある大手ショッピングセンターは、商品価格にヨーロッパ産であることの黒の★マークを付け、販売し始めました。ショッピングセンターは、顧客の中にはデンマーク産を優先し、その次はヨーロッパ産、アメリカからの物は出来るだけ買わない、という人達への目印として付記したと語っています。

写真:商品の値段にヨーロッパ産であることの表示としてに黒の星印を付記した価格表。

       (Kilde: Jyllands-Posten 28.feb.2025)

デンマークの国民の中に、トランプ大統領の強者の理屈を基にした外交論は、弱者を守り保護する教育を受けた人には、受け入れられない論説です。

アメリカ商品やサービスへのボイコットを呼びかけている背景に、ウクライナ市民の正義と平和を守る戦いに行動を通し、支援するという心が働いているためだと思えます。

ウクライナはどのような条件での終戦または停戦を受け入れなければならないか、デンマークの人たちにとって、ウクライナの民主主義国家を守る戦いはデンマークの民主国家を守るための戦いでもあるのです。それだけに、トランプ大統領のウクライナとロシアとの戦争の原因はウクライナにあるという発言は絶対受け入れられないことなのです。

 

③ 国防の強化に努めるデンマークについて

デンマークがNATO(北大西洋条約機構)に加盟したのが1949年ですが、アメリカ政府とは国防においてNATOに加盟する前からグリーンランドに米軍基地建設を認め、今日においても、グリーンランドに米軍基地があります。(設立過程については筆者の著書「デンマークという国を創った人びと」123頁以降に記述しています)。

この先、ウクライナ戦争の終結に向けたアメリカの大統領の調停案が提示されると思いますが、デンマーク政府議会はアメリカのNATO国への支援は今まで通りにはいかないことを認識し、急遽国防の強化を決め、今年2025年と2026年の国防予算額として各年250億クローネ計上し、さらに2033年までに国防費として1, 200億クローネ計上しました。

この背景にはプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を成功させた後、バルト海諸国からスカンジナビア諸国にも侵攻する可能性があることを懸念しているためです。

何れにせよデンマークの政府議会は武器弾薬の購入を急ぎ、軍事産業の整備を含めた国防への強化に入りました。デンマーク以外でもアメリカ政府のNATO支援が懸念される中、欧州諸国も軍備に力を入れることになると思っています。特にこれから先、ドイツ、フランス、イギリスなどの軍需産業の活性化を通した経済成長が期待されます。参考までに、ロシアの国民総生産額(2022年)22億1,500万ドルに対し、ヨーロッパの大国であるドイツ、フランス、イギリスそしてイタリアの四カ国の国民総生産総額はロシアの約5.4倍の119億4,200万ドルで、それにスカンジナビア4か国など含めると、ウクライナを支援する国家の経済力は少なくともロシアのそれに比べ10倍にもなり、経済力から見てロシアの軍事力に勝てないはずはないと筆者は思っています。

 

デンマークが、ウクライナへ救済に金銭面で多大な支援が出来ている背景に、デンマークの財政が豊かであることです。2023年における国民総生産高は28, 047 億クローネで一人当たり467,450クローネ(約62,700米ドル)となりました。国全体の財政では歳入額12,271億クローネ、で国民総生産額の約43.7%が国の税収入になっているということです。

デンマークの租税について加筆します。デンマーク人の納税額の推移については、下記表2の通りです。

 

表2.デンマークにおける年度別にみた租税額と内訳 単位:億万クローネ

項目 2020 2021 2022 2023 伸び率(注)
所得税 7,195.4  8,091.8  7783.4  8,195.2  5.3%
社会保険税 21.6  24.9  23.4  22.4  
労働市場基金(注1) 42.3  66.6  71.5  73.1  2.2%
資産(不動産含め)税 520.0  515.9  517.9  514.3  
消費税等   3,523.4  3,611.1  3,421.9  
その他の間接税 25.3  26.6  36.6  44.1  
合計 (注2)

11,126.3

 12,249.2  12,044.2  12,271.0  1.9%

  (Kilde: Danmarks statistik)

(注1)課税対象額の8%(労働市場サービス費用として利用)

(注2) 単位を1000クローネから億万クローネに上げ、四捨五入したため合計額は一致しない。

(注3)伸び率は2023年の対2022年比で筆者算出

 

デンマーク統計局によりますと、2024年国民総生産の伸び率は前年比3.6%となっています。2024年の納税額の詳細はまだ公開されていません(?)が2023年に比べ租税額は増えたはずです。

 

参考として、デンマークの財政規模の大きさの見当材料としてデンマークと東京都の財政規模を比較してみます。東京都の人口は約1,390万人です。2024年の財政規模は一般会計で8.4兆円、特別会計含めた会計規模16.6兆円です。それに対し納税額(2024年)は6.2兆円となっています。

 

デンマークの人口数約6百万人で、2023年の租税額は約1.2兆クローネ(約25.7兆円)になっています。東京都は国ではないので、例えば消費税は東京都の納税額には入らないなど、‘デンマークの租税額と直接比較することに無理がありますが、国民の納税額の差異についてのイメージになれば幸いです。

何れせよ、日本とデンマークの国民生活を維持するための基本的国家経済政策の違いがデンマークと日本の国民総生産の違いと、租税額の違いになっていると思います。

デンマーク租税額率は国民総生産(GNP)の約44.7%です。国の行政機関はそのお金で国民生活に必要な医療、社会保障、教育費など、ありとあらゆる面での保護や保障をしています。

一方、日本の場合はGNPに占める租税額の割合は約45.1%(内、国税と地方税26.7%、医療、年金社会保障18.4%) とほぼデンマークと同じ割合ですが、教育・医療の多くは民間団体(事業)が運営管理としていることが多く、結果的に生産性に欠けていると言えます。

例えば、日本の人口数がデンマークの約20倍に対し、日本の大学数は792校(内国立86校、公立99校、私立607校)所在し人口減の傾向にも関わらず、大学数は増える傾向にあります。

一方デンマークは全て国立大学で8校です。日本の大学数はデンマークに比べ792÷8で99倍となっています。人口数が20倍に対し大学の数が99倍になっていることは大学の運営管理など通し税金の無駄使いになり、学生は大学の教育を通して生産性ある(例えば起業家を育成)教育を受けていないように思うためです。

結果として、国民一人当たりに換算したGNPはデンマーク比べ低くなっています。その理由は、日本の競争社会が結果的に生産性の低い国民経済を生み、税金の無駄使いをしていると筆者が見ています。

廃棄物の焼却施設について、日本には約1,000か所の廃棄物焼却所が(廃棄物の約80%焼却)所在しています。それに対しデンマーク26か所(焼却廃棄物のほぼ100%コージェネ)です。ということは日本の焼却施設数はデンマークに比べ1000÷26=約38倍になっており、しかも日本の焼却炉は廃棄物を燃料化していないと聞いています。それに比べデンマークの26か所の焼却炉では、廃棄物から電気とお湯を生産し、それによって電気や石油の節約をしています。何故ならば廃棄物4㎏焼却によって得られるエネルギー量は石油1リットル同量とみているため、廃棄物を燃料化することで化石燃料の節約に繋げています。

日本では廃棄物の焼却施設数がデンマークに比べ多いだけではなく、廃棄物をただ燃やすことは税金の無駄使いをしている思うためです。

他にも職場の人事異動を通したロス(人事異動に伴う費用、仕事を覚えるまでの人件費など)などがあります。日本の人口が減る中で、増え続けるのは国債と地方債、人口の減少など国家経済へのマイナス要因を考えますと、次世代のためにも、何らかの改善策が必要であると思えます。

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2025年3月5日

 

デンマーク、ウアンホイにて

ケンジ ステファン スズキ