1. ミンク農家への補償について
「風のがっこう便り2020年」において、コロナ感染問題を理由として、デンマーク政府・議会は2020年11月4日、全てのミンクを殺処分することを決めたことについて触れました。そしてそのミンク農家への補償について、今年(2021年)1月25日、与野党間*で取決めがありました。そのことについてお知らせします。
*政府与党(Socialdemokratiet)野党(Venstre、De Radikale, SF, Liberal Alliance)
補償額の査定根拠として:(1クローネは日本円で約17円)
① ミンク農家1戸当たりの子取り用ミンク数2,670匹とし、これらのミンク(親)から生産した毛皮の質は標準とする。
② 2020年に殺処分した毛皮1枚の値段を160~250クローネに査定し、将来における売値を333クローネに査定。
③ ミンク農家の平均的生産単価及び資本財(ミンク小屋、かご*, 機器、工具)の残り使用年数を15年とする。 *ミンクという動物は集団で飼うことが出来ないため、ミンク1匹毎に金網のかご(Cage)の中で肥育している。
④ 上記を基に、ミンク農家1戸当たりへの平均的補償額は*:
・殺処分代 270 万クローネから410万クローネ
・将来(2030年を限度)減収入額分760万クローネ
・資本財への補償額130万クローネ
・よって、1戸当たりへの補償額は1,160万クローネから1,300万クローネになると見込んでいます。一方でミンク農家1戸当たりの借入金の平均残高は870万クローネからして、補償額の多くは借金の返済に充てられると見ています。*デンマークの政府与野党間で取決めしたミンク農家への補償策はEUの認可を得る必要があり、その認可を待って、農家別に補償査定に当たり、そのことで、支給される補償額はミンク農家毎によって違いが出てくるようです。
デンマーク政府・議会が計上した、上記ミンク農家への補償総額は約188億クローネ(円換算で約3,200億円)を見込んでいます。ということはデンマークの人口約584万人からして、一人当たりのミンクへの補償額は約3,200クローネ(約54,000円)となり、税金からの負担とは言え、負担額の大きさが解ります。
2. デンマークのコロナ感染による業界への支援金について
デンマークのミンクへの補償金額については上記の通りですが、その他の業界に支払われた支援金額について、2021年1月25日時点での数値を見ますと以下の通りです。
① 給与への支援金額: 128億8600万クローネ
② 自由業者への支援額: 60億4500万クローネ
③ フリーランス業への支援額: 1億200万クローネ
④ 興業業界などへの支援額: 2億1900万クローネ
⑤ 固定費支援額: 77億8000万クローネ
⑥ 季節事業主への支援額: 900万クローネ
① から⑥までの総額計 270億4100万クローネ
デンマークのコロナ感染によって発生した負担額は、今の所ミンク生産農家への補償額と各種業界への支援金を合わせますと188+270.41=458億4100万クローネ(約7,800億円)という金額になりなります。デンマーク政府・議会はコロナ感染者数を押さえ、一日も早く正常は経済活動を戻したいとしているのは、コロナ感染による経済的負担を減らしたいためです。
3.コロナ感染者数などについて
一方、デンマークのコロナ感染者数は今月(2021年1月)始めに比べ、減って来ていますが、それでも隣接する国々の感染者数が多いことから、デンマーク人の国内での移動制限、5人以上の集会の禁止、レストランや飲食店閉鎖などの他、国外への渡航はほぼ禁止状態になっています。その背景には下記表で見る通り、ヨーロッパ諸国内においても感染者数が多く、国外からコロナ菌が入りこむことを規制するためです。
下記表は今年(2021年)1月23日の新聞に出たデータですが、この数値からコロナ感染が確認されて以来1年間の間に、感染者数が増大していることがヨーロッパ諸国の一部だけでも解ると思います。因みに、世界における一日当たりのコロナ感染者数の推移では、2020年1月21日282人から1年後の2021年1月23日では600,790人と増えました。
表 ヨーロッパ諸国におけるコロナ感染者数など*
国名 |
人口100人当たりのワクチンの接種率 |
感染者人数合計 |
人口100万人当たりの死亡者数 |
デンマーク |
3.21 |
193,038 |
334 |
スウェーデン |
1.45 |
547,166 |
1,086 |
イギリス |
8.00 |
3,543,646 |
1,389 |
アイルランド |
2.50 |
181,922 |
567 |
ベルギー |
1.20 |
686,827 |
1,775 |
スペイン |
2.36 |
2,560,587 |
1,177 |
イタリア |
2.12 |
2,428,221 |
1,394 |
ロシア |
0.70 |
3,677,352 |
469 |
ドイツ |
1.70 |
2,110,682 |
611 |
チェコ |
1.40 |
924,847 |
1,411 |
*出典:Kristeligt Dagblad Lørdag den 23. januar 2021, s.6
コロナ感染者が減らない理由の一つには、コロナ菌の新たな変形菌(Mutation)が出ているためです。最初にヨーロッパで発覚したコロナ菌から、2020年8月にデンマークでクラスター5と呼ぶ変形が見つかり、2020年9月イギリスでコロナB117 型のコロナ菌を発見、このB117の感染度が高く、今日(2021年1月末)デンマークで問題になっているのはこのB117型です。そして2020年10月、南アフリカで発見されたB1351 型と呼ばれているコロナ菌で、ヨーロッパに感染者が出たのは2ヵ月後12月です。そして今年(2021年)1月、ブラジルで発見されたコロナ菌はP1と呼ばれていますが、このコロナ菌の発覚は、アマゾン周辺から日本に訪れた4人から出たコロナ菌で、その後、韓国、イタリア、ドイツに広がっている、と言われています。
このように、次々新たなコロナの変形が出て来ている中で、感染者の収束を図り、感染者を出さない方法として、仮に経済的負担が一時的に増えるとしても、国民生活を守るためには、デンマーク政府・議会が採り入れた人々の行動を制限し、ワクチンの接種に努める、他に方法は無いのではないのではないかと(筆者は)思っています。
2021年1月27日
デンマーク、ウアンホイにて
ケンジ ステファン スズキ